政府も対策を急ぐ水道管の老朽化問題。50年前に埋設された水道管の内部はどうなっているのか、独自で解析しました

■水道管の漏水・破損事故は2万件超

「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ」「竜巻やねん」 住宅街に吹き上がる、巨大な水柱―。住宅の高さを遥かに超えています。

年間2万件以上発生している水道管の漏水・破損事故。その原因は水道管の老朽化です。今年1月に発生した能登半島地震でも老朽化した水道管が破損し、石川県ではおよそ11万戸が断水しました。 水道管の多くは高度経済成長期に埋設され、交換作業が進んでいるものの更新率は約4割ほどです。こうした状況に政府も対策を急ぎます。 (岸田文雄総理大臣)「上下水道管の耐震化を早急に進めて下さい」

■水道管更新の工事は1日で約20メートルしか進まず

漏水事故を防ぐため、横浜市は50年ほど前から水道管の更新を行ってきました。 約9300キロに及ぶ水道管の更新率は33%あまり。工事は、1日1箇所につき20メートルほどしか進まないといいます。 (横浜市水道局北部方面工事課 梅崎修司工事担当係長)「道路には水道管以外にもガス管など色々なものが敷設されているので慎重に施工する必要があります。作業が終わった後は道路としてまた開放するのでそういった制約が工事の進捗に影響を与えています」

■「事故寸前」老朽水道管を最新CTで解析すると…

私たちが知らない土の中で水道管に何が起きているのか?番組は、横浜市で50年前に埋設された水道管を専門家の協力で検証しました。 鋳鉄という鉄の合金とモルタルの二重構造となっている水道管を最新鋭のCT解析装置を使って金属の内部まで細かく調査します。 (横浜国立大学 岡崎慎司教授)「外側の土壌に接している部分、へこんでいるところですね。こちらが腐食によって部分的に激しく侵食されたところ」 表面にみられる無数の“くぼみ”は、埋まっていた土壌の影響で錆びつき侵食された部分だといいます。 また、断面の画像からは金属の内部まで進んだ腐食の状況がわかります。 (横浜国立大学 岡崎教授)「ここが腐食生成物というか金属部分が失われた箇所です。管厚を貫通するような腐食部分がたくさん見られます」 (横浜国立大学 笠井尚哉准教授)「ここにはモルタルが取れていなくて、健全な金属部分がなくなっているところが見られますね」 画像を動かしていくと、モルタルはほとんどそのまま残っているものの、金属部分は至るところで深く侵食されていたのが分かりました。 (横浜国立大学 岡崎教授)「モルタルは内面の腐食を防ぐために塗ってあるだけなので、たまたまそれが漏水をかろうじて防いでくれる最後の砦になっている」 (横浜国立大学 笠井准教授)「ほとんど漏水事故寸前だった」

なぜ、水道管の更新は進まないのでしょうか? 原因のひとつとして、水道事業は原則、利用者が支払う水道料金で賄われていることが挙げられます。 (早稲田大学研究院 佐藤裕弥准教授)「人口減少と節水型社会の実現によって、水道水があまり使われなくなる。水道事業者にとっては、水道料金収入が減収になっていくという点で大きなダメージになっています」

■人口減の町…たった2人の職員が夜の漏水調査

地方では、事態はより深刻です。 ある日の午後10時過ぎ、暗闇の中で行われていたのは、水道管の漏水調査です。 山口県上関町の上下水道係に勤める西山大介さんは、部下の武末洋明さんと2人だけで、水道施設の管理・運営を担っています。 (上関町上下水道係 西山大介係長)「基本的に少ない人数でやっていくと、夜中に出るということもよくありますね」 瀬戸内海に面した上関町は、漁業を主な生業とする人口およそ2200人の小さな町です。町の人たちに24時間、安心・安全な水を届けたい…そんな思いから、西山さんは漏水の可能性がある地区を日々調査しています。漏水調査は、水道管の図面をもとに、漏れ出す水の音を聞き分けることで場所を特定していくという地道な作業です。 (上関町上下水道係 西山係長)「けっこう長いね、ここ。音が消えるかもしれん」 調査が始まって、およそ2時間… (上関町上下水道係 西山係長)「これは怪しい!聞こえますね、噴射音。ずっと水が流れてますね。漏水しとるぞ、これ」 地面に探知機をあて、水道管からの音に意識を集中します。 しかし、この日の調査では場所の特定には至らず、後日あらためて行うことになりました。 (上関町上下水道係 西山係長)「地中にあるものなんで見えないじゃないですか。だから何度も何度も地道に同じことを繰り返して精度を上げていく。一回(地面を)掘ると10万とかかってしまうので、水道料金は効率的に使わなければならない。なけなしの財源なので」

■“水道料金4倍”の試算…「広域化」で解決なるか

上関町の人口は、水道が整備された1960年代には1万人を越えていました。しかしその後は減少の一途をたどり、今では5分の1ほどに。去年報告された試算では、20年後には水道料金を4倍以上に上げないと、事業の維持は難しいというのです。 (上関町上下水道係 西山係長)「それだけ料金を上げていくと、住民は生活できなくなってしまうとか、町からも転居してしまう。また企業の誘致も難しくなることが想定されますので」 これを受けて、今年1月、上関町は近隣4つの自治体と事業を統合する方針を決めました。いわゆる「水道事業の広域化」です。複数の自治体が事業を統合することで、技術の提携や給水施設の縮小などを進めて効率化を図り、料金の値上げを抑制する取り組みです。西山さんは、来年度から始まる「広域化」に期待しつつ、準備を進めていきたいと話します。 (上関町上下水道係 西山係長)「たった2人で365日24時間、なんとか支えていますけども、正直きつい部分はあります。他の自治体とノウハウも共有しながら、住民の生活を支えられるよう、手厚い体制を整えたいと思っています」

9月1日『サンデーステーション』より