7月の大雨では、県が管理する名蓋川と出来川の堤防が決壊しました。
近年、激甚化する豪雨災害。中小河川が持つ水害リスクについて取材しました。
熊谷博之アナウンサー「小さい川なんですが、名蓋川、堤防を見ますとご覧のように切れていまして、ここから水がどーっと、きのうは流れ込みました」
7月15日から降り続いた大雨で、堤防3カ所が決壊した宮城県大崎市の名蓋川。
周辺の古川地区では住宅625棟が浸水した他、農地約2300ヘクタールが冠水するなどの被害が出ました。
住民「今回で3回目なんですけど」
県が管理する名蓋川の堤防が決壊したのは、2015年の関東・東北豪雨、2019年の台風19号に続き、この7年間で3回目です。
浸水被害から1カ月。現地では決壊した場所に土のうを積む応急工事が終わりました。
7月の大雨では、名蓋川と同じ県が管理する、美里町と涌谷町にまたがる出来川の堤防も1カ所で決壊しました。
堤防の崩れを含めると、県管理の85の中小河川、549カ所で被害が確認されています。
現地を調査した河川の水害に詳しい東北大学の橋本雅和助教は、中小河川の対策の現状についてこう話します。
東北大学災害科学国際研究所・橋本雅和助「河川整備の基本的なルールとして、大きい川から整備を始めていく。その整備が、戦後くらいから進められてきて、大きな川で破堤するということは、なかなか無くなってきた。今のあるフェーズとして、国が管理している大きい川の整備が終わりつつあり、今度は国の管理と県の管理の境界の部分で、被害が起こっている」
こうした背景がある中小河川。
その上で、橋本助教は、名蓋川の決壊については、2つの要因が引き金になったとみています。
その一つが「川の環境」です。
橋本助教「決壊した付近に、川の中に樹木があって、その樹木に枯草が絡まっている状態というのが、いくつか見られたので、その一部分で水位が上がって、集中的に越水し続けることで、土が削られていくので決壊する」
橋本助教は、川の中にある樹木や草によって、水が流れにくくなっていたと指摘。雨の季節の前に刈り取っておくことが対策になると話します。
出来川でも、決壊した場所付近にあった植生によって、川の流れが悪くなっていました。
もう一つの要因は「雨の降り方」です。
大崎市古川の観測データを見ると、決壊が起きた3日前にもまとまった雨が降り、いったんやんだ後に、記録的な雨が降っていたことが分かります。
累積の雨量は400ミリを超えました。
これは、県が名蓋川に設置した定点カメラの映像です。
1時間ごとに見てみると、一度、橋の下すれすれまで増した水位はいったん下がり、その後、再び水位が増して周辺の田んぼに広がる様子を捉えています。
橋本助教「川の水位は下がっているんですけれども、山全体を見たら水を含んでいて、土の中はある程度水がある状態。ふた山目の降り始めた雨がある程度、山に吸収されるんですけれども、その吸収される度合いが最初のひと山目の水のせいで入っていけない」
橋本助教は、決壊の原因になる川への急激な負荷を避けるため、周辺の水田を生かした「水田貯水」が有効だと指摘します。
「水田貯水」とは、大雨になる前に水田の水位をあらかじめ下げ、ダムの役割を果たしてもらう対策です。
橋本助教「川の中だけで(雨を)流し切るというのが、なかなか難しくなってきているので、水田貯水や遊水池などをどんどん取り入れて、川への流出を遅らせる対策(が必要)」
近年、激甚化する豪雨災害。
気象庁は、今年6月から、発達した積乱雲が次々と連なって大雨をもたらす線状降水帯の発生情報を出しています。
気象庁の線状降水帯に関するワーキンググループの委員を務める、東北大学の伊藤純至准教授は、県内の雨も線状降水帯に匹敵する雨になっていたと話します。
東北大学大学院理学研究科・伊藤純至准教授「扇形になっていたので、線状降水帯とは判定されていなくて、ただ雨量としては、線状降水帯の基準は満たしていました」
8月に入り、東北各地で線状降水帯が発生し、決壊が2つ、氾濫が35の中小河川で確認されています。
橋本助教は、これまで東北地方が経験してきた雨の規模を大きく上回る、2倍以上の雨量に警戒する必要があると話します。
橋本助教「数年前から九州地方で起こっていたような雨の降り方が、気候変動の影響で東北地方でも降るようになる。そういう雨は、東北地方でも降るようになると言われていたことなんです。中小河川の流域にもたらされれば、そこで急激に水位が上がるってことになりますから、どこでも起こり得ることですし、これからも起こっていくでしょう」
宮城県は、名蓋川の対策工事について、堤防の補修や増強の他、集落の周りに堤防を造る「輪中堤」を建設する方針です。