暴力によるDV(ドメスティック・バイオレンス)に比べて、言葉や態度で相手を傷つける精神的DVは被害の実態が見えにくくなっています。被害に遭った女性の証言と必要な支援です。
Aさん「夫が言ったことに私が答えるのは、はいかイエスだけでノーなんて許されない。ノーなんて言ったら、お前は社会性がない、空気が読めない、人間として失格だ、と言われる」
宮城県に住む50代のAさんは、元夫から20年以上精神的DVの被害を受けました。元夫は2人の子どもが生まれた後、言葉や態度が一変したと言います。
Aさん「こんな勉強もできないような子どもを産んだお前が悪いと言われました。そもそもお前が母親であること自体が、子どもたちへの虐待だと言われました。私と子どもは独房に入れられた囚人みたいでした」
精神的DVとは、配偶者やパートナーが相手を大声で怒鳴ったり召使のように扱ったりすることで、無視をしたり人前で侮辱したりする行為なども該当します。精神的に相手を追い詰めて支配しようとします。
Aさん「最初は自分が悪いからこうなっている、私のやり方が間違っているからこうなっていると思っていました。だから最初は、夫が言った通りに直そう直そうと思っていました」
仙台市の調査では、結婚歴がある人のうち配偶者からDVの被害を受けたことがある人は女性で約3人に1人、男性で約5人に1人いるということです。
DVには、身体的DVや性的DVなど様々ありますが内閣府の調査では、寄せられる相談のうち精神的DVに関する相談が70%近くに上ります。
国も対策に乗り出しています。4月、精神的DVについても被害者への接近を禁じる保護命令の対象とするなどの法改正が行われました。各自治体も、市民向けのセミナーなどを開催して精神的DVについて知ってもらう試みを行っています。
セミナーで講師を務めたのは、自らも配偶者から精神的DVを受けた経験があるNPO法人代表理事の西山さつきさんです。
NPO法人レジリエンス西山さつき代表理事「家電が壊れた時、元夫に家電が壊れたと言うと何でそんなこといちいち言ってくるんだと怒鳴られます。こういうこと言っちゃいけないんだと思って、次の時は言わないで直しました。すると何で相談しないんだと言われる。結局、どちら転んでもアウトなんです。すごくきつい」
西山さんは、DVをする人は職場などでは一見良い人である一方、パートナーに対しては暴力的という二面性が特徴の1つと話します。被害者が逃げ出しても周りの人から情報を聞きだし、追ってくるケースがあるといいます。
NPO法人レジリエンス西山さつき代表理事「DVの加害をする人は暴力で相手を支配することもうまいですが、自分を良い人そうに見せかけて周りの人をコントロールすることもとてもうまい。追跡してくる加害者が加害者に見えない」
参加者「DVはもっと激しいものというイメージが強かったが、静かに存在を否定され無視をするということも暴力だということに驚きました」
精神的DVの被害を受けていたAさんは、行政などの相談窓口を訪ねましたが適切なアドバイスを受けることができませんでした。
Aさん「相談に行って私が話したことをただ相手が繰り返すだけです困っているんですと言うと、困っているんですね。言葉の暴力がひどくてと言うと、言葉の暴力がひどいんですね。繰り返してるだけなんです」
行政の担当者は、DVの相談は1人1人の背景が複雑で相談者が何を望んでいるかなどが把握しにくいと支援の難しさを話します。
仙台市男女共同参画課岸柳敏課長「DVの支援は、ご自身が今後どうなりたいかが決まらないとなかなか支援も決まらないことが多い」
公認心理師でDV被害者のカウンセリングを行っている信田さよ子さんは、行政は命の危険を及ぼす身体的DVの支援を優先する傾向があるので、精神的DVに悩む人は民間の支援機関に頼ることも大事だと訴えます。
公認心理師信田さよ子さん「男女共同参画センターや女性相談センターは、身体的DVの方でいっぱいになっちゃうと思う。公認心理師がやっているような民間の相談機関を探して相談に行くと、とても良いと思います」
Aさんは、宮城県のNPO法人に相談し民間のシェルターに避難したことで、被害から逃れることができました。被害を逃れるためには、誰かの助けが絶対に必要だと話します。
Aさん「結局、逃げたいと思っている本人が自分からアクションを起こさないと何も始まらないです。誰かの救いの手を待っているだけでは、絶対に救われないです。迷いながらもわずかなきっかけでも良いからそれを手掛かりに、助けてくれる人を探し続けることです」