宮城県が全国有数の産地であるノリは、海水温の上昇などで収穫量が減少傾向にあります。漁師たちは苦境に立たされていますが、一方で暑さに強いノリの研究が進められています。

 夜明け前の宮城県東松島市大曲漁港で漁の準備を進める相澤太さん(44)は、3代続くノリ漁師です。
 収穫の季節を迎え、向かうのは約10分ほどの養殖場です。
 相澤太さん「1年に1回のシーズンなので、めちゃくちゃ楽しみっていうか、あとはこの年がどんな年になるかっていう期待があるしね」

 高品質とされる初摘みのノリを、専用の機械で次々と収穫していきます。ノリ漁師になって20年以上の相澤さんは、皇室に献上されるノリを選ぶ品評会で23歳で準優賞、28歳で最年少で優賞に選ばれました。

 相澤さんはここ数年、海の様子に異変を感じています。
 相澤太さん「水温が高くなって栄養が不安定っていうのは、ずっと増えてますよね。ここやっぱり5年くらい、急激に海が悪くなっているっていうスピードが速くなっている」

ノリの養殖で感じる海の変化

 宮城県水産技術総合センターが、調査している海水温の変化です。2023年と2024年は、年間の海水温が平年と比べて平均で2℃から3℃ほど上回っています。
 海水温の上昇と反比例するようにノリの生産枚数は減少傾向にあり、2023年は2億8000万枚余りと震災後最も多かった2016年と比べて7割以下となっています。
 相澤太さん「ノリは寒い時期が一番収穫できる時期なので、年間通して暖かくなると漁期が短くなっちゃうんですね。5年後、10年後ってあっという間じゃないですか。それを考えた時に、海から取れる資源は本当に減っていくなあというのは感じますよね」

 ノリ養殖の北限といわれる宮城県で、急速に進む環境の変化にどのように対応するのか最新の研究が進められています。
 仙台市太白区にある宮城大学太白キャンパスで、食産業学群の三上浩司教授が高水温に強いノリの研究を進めています。高温に強いウシケノリという種類のノリを解明し、その仕組みを私たちが食べているスサビノリに応用する品種改良に取り組んでいます。
 宮城大学三上浩司教授「これまでの育種は、経験に基づいた待ちの姿勢で偶然出てきたものを拾ってくる感じで。ノリ自身の生き様、生存戦略と言うんですけどそれを理解しないといけない。しかもそれが僕らの言葉で分子レベルと言うんですけど、遺伝子の働きを通して明らかにしないと次の育種につながらないということです」

高水温に強いノリの研究

 三上教授が研究のもう1つの柱としているのが、高水温への耐性を持つ未利用のノリを見つけることです。
 宮城大学三上浩司教授「温度を変えた区画があります。下からだんだん暖かくなっていっています」

 インキュベーターと呼ばれる機械の中に入れられたノリ。それぞれの区画が異なった温度に保たれています。全国各地で収集したノリを本来生育に適さない高めの温度で管理し、この環境の中で生き残ることができる個体を探しています。
 宮城大学三上浩司教授「普通は15℃とかそれ以下にすんでいるので、30℃とか28℃で生きられたら高温に強い物と判断できます。そこで生きることができる物が出てくれば、高温耐性株として品種になるわけです。そういうものを僕ら目指して、地味ですけどね、こういう解析をしているということです」

 しかし、ノリの研究は国内では十分に進んでいるとは言えないのが現状で、まだ解明されていないことが多くあります。
 三上教授は、この研究を通じて未来につながる持続的なノリ養殖を実現したい考えです。
 宮城大学三上浩司教授「地元のそういう物を見つけて、宮城県のノリ養殖を支えていきたい。うまくいくと全国に持ち出すことできると思うので。日本のノリ産業を救っていける方向に行くんじゃないかなと」

海の環境変化を説明

 ノリ漁師の相澤さんは、海の環境について考えてもらおうと講演会やワークショップなどの活動を始めました。
 相澤太さん「海の変化によってノリ養殖がどんどんできなくなる」
 この日は、温室効果ガスの削減に取り組む宮城県の企業などを対象に、海の状況を説明しました。漁師の立場から、環境を守ることの大切さについて講演しました。
 相澤太さん「海と向き合う職業だから、海の変化のスピードをものすごく感じています。けさも海に行ってきてノリを触っているんですけども、それ以外にやっぱり伝えるとか、みんなと何かをやるっていう行動をどんどんやっていかないと、これからの未来の子どもたちに大人としてちゃんと背中を見せてあげること」

 参加者「温暖化がすごく進んでいるんだなって改めて実感したところ」「養殖もたくさんやっているので、海自体が豊富な資源と思っていたんですけど、意外にそうではなかったっていうのがショックでしたね」
 相澤太さん「環境問題ってどこか遠くの問題かもしれないけど、食べるとか食品とか、あとは子どもの世代とか孫の世代に影響するっていうことをより実感できれば、より環境問題も自分ごとになるのかなって」