給与収入が103万円を超えることで所得税の課税が始まる103万円の壁、働き手の確保に困惑する労働現場や税政の在り方について経営側と専門家に聞きました。
103万円の壁の撤廃は、10月に行われた衆院選で国民民主党が掲げた公約です。
国民民主党玉木雄一郎代表「政治の役割は国の懐を豊かにすることではなくて、国民の皆さんの懐を豊かにすることが政治の仕事だと思っている。103万円の壁は、103万円以上働くとここから税金を払わなきゃなくなる。皆さんにとって減税効果がある。私たちは103万円を178万円まで1.7倍にしようと思っている」
現行の制度では給与収入が103万円を超えると所得税が発生します。国民民主党の主張は、103万円の壁を178万円まで引き上げることで課税されないよう働き控えをしていた人たちの収入を増やします。
現行制度ができた1995年当時の最低賃金と現在の最低賃金を比較すると約1.73倍の開きがあることから、新たな課税ラインは103万円を1.73倍にした178万円としました。
街の人に聞くと、103万円の壁が働くことの障壁となっているとして引き上げを求める声が多く聞かれました。
大学生「シフトとかは結構減らしていただいたりします。(103万円の壁が)無い方が助かりはするかなと思う」
主婦「その時その時の家の事情に合わせて仕事をできればと思ったこともあった。教育費も生活費も掛かる時代になってきているので」
主婦「時間にしばりがあるともっとやりたくてもやれない仕事も出てきちゃうし、中途半端で終わっちゃって逆に人に引き継ぐことが大変になったりとかもあるので、無くてもいいのかなと」
労働者を雇う側にとっても、103万円の壁は大きな障壁となっています。宮城県で飲食店19店舗を展開するぼんてんグループの長谷川正美です。
グループの店舗では、2024年の収入が既に103万円を超えているパートタイマーやアルバイトもいて、年末になると毎年のように従業員の確保に頭を悩ませているということです。
ぼんてんグループ長谷川正美さん「今まで週に6日間出勤していただいていたパートさんは、12月からは週1回というシフトに変更してほしいと大変困っている。限られた人数でやらざるを得ないという感じ」
働き手の確保が難しい中、一刻も早く制度の改革を進めてほしいと訴えています。
ぼんてんグループ長谷川正美さん「人口が減っていますので働き手が5年前10年前から徐々に減ってきて、求人費用は掛かるし求人出しても来ないことも多いので、とにかくダブルパンチみたいな感じですね。今すぐにでも103万円の制限をもう少し上げていただきたい」
帝国データバンクが全国の企業を対象に行ったアンケートでは、103万円の壁について「引き上げに賛成」が67.8%「撤廃すべき」が21.9%と、約9割の企業が見直しや撤廃を求めている結果が出ています。
一方、103万円の壁の引き上げによって税収が減ることへの懸念の声もあります。
村井宮城県知事「地方財源に大きな穴が開く可能性があるという不安感を持っています。今回の措置を恒久的な措置として行うのであれば、地方への財政措置も恒久措置としていただきたい。これから生まれてくる子どもたちに負担を押し付けるような形に現世代がしていいのかということを、常に頭に入れながら対策を考えていただきたい」
宮城県の場合、税収は年間810億円減るという試算が出ていて、村井宮城県知事は地方自治体への影響を考慮した対応を求めています。
国民全体の関心ごとになった103万円の壁について、財政学を専門とする東北大学の吉田浩教授は約30年間見直しが無いままの現行制度は、事実上の増税と指摘します。
東北大学経済学研究科吉田浩教授「ここ何十年の間に最低賃金が少しずつ上がっています。前と同じ働き方をしても手取りの賃金が上がってしまうので、今まで税金が掛からなかった人が税金が掛かるようになるということは、制度上の増税が行われていることと同じになってしまいます」
一方で、今回の見直しについては国民の間に誤解も多いと話します。
東北大学経済学研究科吉田浩教授「103万円の次の104万円になった時に、いきなり何十万円も税金が掛かるわけではなくて104万円から103万円を引いた1万円の部分だけに5%の税金が掛かりますので、500円くらいということになります。多少税金が掛かっても、働く時間を少し増やせれば十分回収できる。少し悪いイメージが先行している」
今回の提案は、より良い日本のあり方を模索していく上で与党からではなく野党からの提案による税政改革であり、大きな意味があるとも話しています。
東北大学経済学研究科吉田浩教授「女性の働き方が多様になってきた時に、公平かつ労働供給を阻害しないような効率的な税制がどうあるべきかを見つめ直すチャンスになると思います。政治における物事の決め方も新しい段階に入ってきているということで、そういった意味では新しい転換点になるのではないかと思います」