宮城県が5月に公表した新たな津波の浸水想定で、気仙沼市では県内で最も高い22.2メートルの津波が押し寄せるとされています。
津波から命を守るためにはどうしたら良いのか。模索する住民と研究者の思いを取材しました。
1日に気仙沼市で開かれた住民説明会。登米沢地区で振興会の会長を務める三浦康成さんの姿がありました。新たな津波想定を受け、避難計画の見直しを迫られています。
宮城県河川課の担当者「気仙沼市の最大津波の高さが22.2メートルという所がございまして、登米沢の海岸の所でございます」
宮城・気仙沼市は県内最大22.2メートルの津波を想定
気仙沼市には、県内で最も高い22.2メートルの津波が押し寄せるとされていて、その場所が三浦さんが暮らす登米沢地区なのです。
登米沢地区振興会会長三浦康成さん「浸水の想定の中にいる人たちの人命というか、その人たちが一番心配かなと感じました」
気仙沼市の南部に位置する登米沢地区。東日本大震災前は81世帯が暮らしていましたが、津波で8世帯の住宅が流され1人が犠牲になりました。
登米沢地区には、2017年に市内で最も高い海抜14.7メートルの防潮堤が整備されました。しかし、この防潮堤も津波で破壊される想定です。第一波が襲来するのは地震発生から27分後。
登米沢地区振興会会長三浦康成さん「(津波が)ずいぶん高い所まで来るんだなと思いました。防潮堤は(海抜)14.7メートルの高さで結構高い感じはするんですけどね。そこを超えてくるというんだから、想定もしない津波が来るのかなという感じがしますね」
海の近くには2世帯が残り、三浦さんら6世帯は海から500メートル内陸の高台に移転しました。新たな想定では、気仙沼市の浸水面積は東日本大震災の1.4倍に拡大しますが、三浦さんが移転した内陸部まで津波が到達するかは、公表から2カ月が経とうとする今も分かっていません。
登米沢地区では、これまで定期的な避難訓練は行ってきませんでしたが、今後は新しい想定をもとに毎年避難訓練を実施し、防災力を強化したい考えです。
登米沢地区振興会会長三浦康成さん「浸水のある家に対してはとにかく避難を(呼び掛ける)。例えば、こっちの人はこの辺に避難してとか、集会所に避難してという感じで、とにかく一番が避難しかないのかなと」
新たなハザードマップを
新たな津波想定を受け、地域の防災計画の見直しを既に始めている地区もあります。唐桑半島の西部に位置する小鯖地区です。住民たちが作ろうとしているのは、新たなハザードマップです。
小鯖地区自治会長伊藤信也さん「震災の前のハザードマップですけど、(新しい津波想定では)大体、安全な黄色の部分がだいぶ狭くなって、浸水する部分がかなり広がると思うんですよ」
小鯖地区では、震災前の2005年に宮城県沖地震に備えようと地区独自のハザードマップを作成。半年に1回、避難訓練を実施してきました。
震災では、12.5メートルの津波が押し寄せ、8人が犠牲になりましたが、住民の多くはハザードマップをもとに高台に避難し助かりました。
新たな想定では、浸水域が震災時よりも拡大するとされているため、避難場所や避難経路の見直しが必要になります。
2023年に、新たな津波想定を踏まえたハザードマップを作成することにしています。
小鯖地区自治会長伊藤信也さん「皆さんの命を守る上でも、少しでも安全なハザードマップに作り変えていきたいと思います」
震災前、小鯖地区でハザードマップ作りの指導に当たった東北大学災害科学国際研究所、所長の今村文彦教授です。
宮城県沖地震に備え、震災前から沿岸自治体を訪れ住民たちと一緒になって津波から命を守る手段を考えてきました。
東北大学災害科学国際研究所所長今村文彦教授「皆さんと取り組んだこの地域で想像を上回る被害が出てしまい、当時、本当に言葉を失いました」
最悪の事態を想定しきれなかった後悔と葛藤しながら研究を続けてきた今村教授。起こり得る最悪の条件を考え、今回、新しい津波想定を設定しました。
二度と津波の犠牲者を出さないために、地域の防災を見つめ直すきっかけにしてほしいと訴えています。
東北大学災害科学国際研究所所長今村文彦教授「最悪はまた今後も変わり得るが、安全な所はどこなのか。また、今の緊急の避難場所も、安全性を高めるためにはどうしたら良いのか。具体的に検討いただきたいと思います」