2022年12月、仙台市青葉区にオープンしたパン屋さんのオーナーは聴覚障害のある男性です。障害を乗り越えパン職人になった男性の目指すものは。
青葉区錦町の住宅街の一角にあるパン屋さん。2022年12月にオープンした、麦薫る風処萌芽です。店には15種類以上のパンが並び、小麦の香ばしい匂いが店内に広がっています。
この店のオーナーで、パン職人の羽生裕二さん(38)は、生まれつき両耳が聞こえません。お客さんとは筆談や手話を使って会話しています。
買い物客「またね。ありがとう。また来ます」
羽生裕二さん「パンを焼くことだって、耳聞こえないことで困ることあんまりない。例えば、オーブンのアラームとか聞こえなかったり、電話ができないこととか従業員に頼めば良い。人に頼ればあまり困っていることないです」
店では、5人ほどの従業員が働いていて、接客は基本的に従業員に任せています。羽生さんと従業員は口の動きを読んだり、スマートフォンのメモ機能を使ったりしてやりとりします。
従業員「慣れました。耳が聞こえない人とどうやって働いているのってよく言われるんですけど、何とかなるし慣れるし」
羽生さんは、愛媛県出身。2010年に結婚を機に、妻の実家がある仙台市に移住しました。しかし、仕事探しで大きな壁に直面しました。募集の多くは電話で受け付けていて、耳の聞こえない羽生さんにとっては難しいことでした。書類で応募できても、筆談では時間がかかるなどと言われ、20社以上に断られました。
ようやく採用が決まったのが、障害を理解してくれた仙台市内のパン屋さんでした。しかし、もう1人いたパン職人がすぐに辞めてしまい、これまでほぼ独学でパン作りを覚えてきました。
羽生裕二さん「私が1人で代わりにパンを焼かないといけなくなって、1人でまだ入ったばかりだから何も分からなくて。自分で本を見たり手に取ったり、だから今もほとんど独学」
羽生さんはその後独立し、今も試行錯誤しながらオリジナルのパン作りに励んでいます。一番のこだわりは。
羽生裕二さん「萌芽の特徴は、大きく分けてハーブ酵母と特産品を使ったパンという2つがある」
店の人気メニューは、1週間ほどかけてバラやラベンダーなどの花を水に入れて発酵させた花の酵母を使ったパンです。
羽生裕二さん「食べてみると、花の香りがダイレクトに伝わってくるんです。他のパン屋さんでは食べられないので、ここでしか食べられないパン」
宮城県の食材をふんだんに使ったパンも人気です。石巻産のホヤをポテトに混ぜ込んだ、ほやポテト。東松島産のノリを入れた、海苔の塩パン。
この日、店を訪れたのは聴覚障害のある女性。知人の紹介で店を知り、羽生さんが作るパンのファンになりました。
女性「一生懸命作ってくれる方で、優しい人です。いろんな彩り入れておいしいです。ばっちりだよ」
今では、1日50人ほどが訪れる人気店になった店。羽生さんには、更なる目標があります。
羽生裕二さん「このパン屋の屋号は萌芽と言うんですけど、この意味は芽生えで、どんな人でも活躍できる所を作りたいという意味です」
仕事探しで味わった苦い経験。障害者などいろいろな境遇を抱える人が働ける環境を作るのが次の目標です。
羽生裕二さん「私の耳が聞こえないことは、自分の人生を狭めるものにはならないと思う。環境は人それぞれ違うので、何ができるかは分からないけど、それぞれの人生に寄り添って考えていけたらと思っています」