日常的に医療的なケアが必要な患者を支えています。介護する親の高齢化や医療的ケア児を取り巻くさまざまな問題。訪問診療に懸ける医師です。
医師の田中総一郎さん(59)。仙台市青葉区にある、あおぞら診療所ほっこり仙台の院長で、訪問診療を専門としています。
患者の1人、宮川智道さん(30)です。先天性ミオパチーという筋肉の病気で、自力で体を動かすことが難しく24時間人工呼吸器を着けています。
田中さんは、普段の体調や酸素と二酸化炭素の数値などを細かく確認します。宮川さんは、6年前から田中さんの訪問診療を利用しています。
宮川智道さん「多くのお父さんの中の1人っていう感じ。私は結構たくさんの大人の方にお世話になって生きてきたので、遠い親戚のよう」
田中さんは奈良県出身で、東北大学医学部を卒業後、山形県や仙台市の病院に勤めていました。訪問診療の道に進むきっかけになったのは、東日本大震災です。津波で車が流され、病院に行けない患者を診察した時に考え方が変わりました。
田中総一郎医師「困ってても(病院に)行けない人がいるんやっていうのは、行ってみて初めて分かることやったんですよね。本当に困っている人は病院にも行かれへん。地域にそのままおるんやっていうこと。医療者も地域に出ない限りは結局、一番のニーズに出会われへんやろうなっていうそんなことがあったんですね」
2016年に診療所を開設。今は仙台市を中心に約80人の患者を担当しています。1日に診る患者は約10人。24時間態勢で急患にも対応しています。
医療的なケアが必要な患者を自宅で診る訪問診療。介護する親の高齢化などを背景に、ニーズは高まっています。
宮城県富谷市に住む横堀絹子さん(72)です。娘の喜子さん(42)を介護しています。喜子さんは、生後間もないころから神経系の疾患を抱えていて、てんかんの発作が出る他、歩くことや言葉を話すことができません。
月の半分、病院に通っていましたが、体力的に負担が大きいため4年前から訪問診療を利用しています。
横堀絹子さん(72)「毎月熱を出して、10日位は病院通いとかっていうのがずっとあったので、うちはすごく助かりました」
田中さんの患者は大人だけではありません。半数は子どもです。
ダウン症や気管軟化症などを抱える6歳の氏家詢さんです。自発呼吸が弱いため、人工呼吸器を装着しています。気管を切開し、カニューレと呼ばれる管につながれています。
詢さんのように人工呼吸器や胃ろうなど日常的に医療的なケアが必要な医療的ケア児は、全国に約2万人いると推計されています。医療技術の進歩に伴い、その数は10年で2倍に増加しています。
田中さんは、宮城県で唯一の小児在宅訪問医です。医療的ケア児を抱える親にとって、その存在はとても貴重です。
氏家華奈恵さん「呼吸器とか加湿器とか酸素とか、体調悪いのにこれを持って病院に受診をするっていうのは、まず1人では行けない。病院に行かなければできないと思っていたことが家に来ていただけるっていうのは、病気の子どもを抱えていると、同じ環境で子どもをみることができるのは、すごく安心でしかないっていうか」
この春、特別支援学校に入学した詢さん。母親の華奈恵さんは、学校で気管カニューレが抜けてしまうことを心配しています。
これまで、特別支援学校で気管カニューレが抜けてしまった場合、挿入し直すことは医療行為に当たるとして、常駐する看護師には認められていませんでした。
宮城県教育委員会は、命の危険がある緊急時は看護師でも対応できるよう、対応をまとめたマニュアルを年度内に作成する方針です。
この日、大崎市の医療的ケア児などが通う施設で看護師やスタッフ向けに研修会が開かれ、模型を使ってカニューレの挿入の仕方を学びました。
参加した看護師「気管カニューレが事故抜去された時の対応が、まだ実際に当たっていないのでそこがまだ不安なところがありますけど、体と手が覚えたなっていう感じですごく有意義な研修会でした」
田中総一郎医師「やっぱりみんな知りたかったんだとすごく感じました。学ぶ機会がきっと無かったんやろうなって思ったんですね。研修会によって、子どもたちが命を失わずに生きることができたらこんなうれしいことないなって」
1人1人の命と向き合う日々。目指すのは病気の困難さだけではなく、生きる喜びを分かち合う訪問診療です。
田中総一郎医師「病気で困ったところを聞くのが、治したりするのが私たちの仕事やけども、それだけやないはずよね。次いつ来るの、今度は何日後ねっていうそれを待っててほしいような、そんなこともあってええかなってすごく思うんですね」