障害のある人の働き方に関する新しい試みです。サポートを受けて軽作業を行う福祉的な働き方から一般的な雇用に切り替え、収入もやりがいも高めようという取り組みが宮城県で始まりました。国内初の脱福祉です。
3月に稼働を始めた宮城県美里町の大規模な野菜工場は、障害者の働き方で全国初となる試みを始め注目を集めています。
障害を持った職員「色々な仕事があるので、種まきとか収穫とかもありますし。やりがいはありますね」「こっちの方が給料も良いしなおかつパート職員だし、将来的なことを考えてこちらの方が良いかなと思ってやっています」
働いているのは、知的障害と精神障害がある11人の障害者で、ホウレンソウの栽培から出荷までの作業を行っています。
手際良く収穫を進める高島快斗さん(24)は、苗や品質確認など一連の作業を幅広く担っています。快斗さんは、4段階で最も軽い軽度の知的障害を抱えています。
高島快斗さん「周りに話す勇気がないので、コミュ障というか引っ込み思案みたいな感じですね。他の会社に行った時には、多分、自分から話せないよなとも感じますね」
快斗さんは、幼いころからコミュニケーションが苦手でした。一般企業への就職には不安があり、特別支援学校を卒業後に就労支援施設で支援員によるサポートや技術指導を受けながら、清掃や段ボール回収などの作業をしてきました。
快斗さんが利用していたのは、就労継続支援B型という福祉サービスです。1人1人の障害に合わせた仕事量や勤務時間で働くことができ、一般就労が難しい障害者にとって貴重な就労の場となります。
一方で仕事内容は軽作業が中心で支払われる工賃は最低賃金を大きく下回り、時給にして全国平均で243円です。快斗さんも週に5日、1日4時間ほど仕事をして月収は1万6000円ほどでした。就労継続支援B型での就労では、経済的な自立が難しいのが実状です。
快斗さんの母親久美子さんは、息子がより力を発揮できる場があればと考えてきました。
母親高島久美子さん「(B型事業所での軽作業より)比較的できる仕事はあるのかなと思ってはいましたが、なかなかそういった機会もそこまで踏み出すところまでいっていなかったので、今まできたんですけどもね。将来、まだ私たちが元気なうちは良いですけども、年を取ってくるので1人で自立していかないと心配ですので」
こうした状況を受けて誕生したのが、大規模野菜工場のソーシャルファーム大崎です。国内で初めて既存のB型事業所を廃止して、利用者を職員として一般雇用する形態に切り替えました。
快斗さんがいたB型事業所を運営していた社会福祉法人が宮城県や日本財団と協力して設立し、障害者の自立を目指す脱福祉を掲げています。
社会福祉法人チャレンジドらいふ白石圭太郎理事長「これからは利用者さんはチャレンジドらいふの職員として、これまで支援員だった職員と一緒に自分たちで自分たちのお給料を稼ぐということになります。法人設立以来の大きなチャレンジとなります」
雇用契約を結び一般就労へと変わった快斗さんは、幅広い仕事を任されるようになりました。業務時間は従来とほぼ同じながら、月収は1万6000円から7万3000円になり4倍以上に増えました。仕事の責任も増し、大きなやりがいを感じています。
高島快斗さん「気を使ったりしますね。お客さんに出すホウレンソウなので」
この野菜工場では、B型事業所で支援員をしていた職員が1人1人の障害に合わせて仕事を割り振るなど、社会福祉法人の強みを生かした働きやすい環境を作っています。
高島快斗さん「楽しみがいがあるような、頑張りがいがあるような感じですね」
障害者の待遇の改善に力を入れてきた日本財団の竹村利道さんは、今の就労支援の在り方を見直し業態を変えていく必要があると指摘しています。
公益財団法人日本財団竹村利道さん「ずっと長い間、障害者にはこれぐらいのことしかさせられないっていうマインドが今につながっていると思います。働くことが十分にできる可能性のある人は、体感的には35万人中の7割くらいは十分働けると思っていますので、業態を改善して企業とのタイアップを果たし、収益を確保して福祉から脱却して就労を支援するというマインドを今後作っていくために我々はモデルをしっかりと展開していく必要があると思っています」
自立に向けて大きな一歩を踏み出した快斗さんの目標は。
高島快斗さん「貯金はしてます。将来は一人暮らしをするような感じですかね。まだ自信はありませんけど一歩一歩ですかね、慣れていくような感じですか」