東北電力は10月7日に女川原発2号機の再稼働時期を、10月29日の予定だと明らかにしました。原発の恩恵と不安の間で揺れる離島の人たちです。

 宮城県女川町の離島、出島は女川町に2つある有人島の1つで周囲は約14キロ、本土とは1日3便の定期船で結ばれています。島の南端から女川原発まで5キロで、重大な事故が起きた場合は直ちに避難しないといけない区域です。

 船でしか移動できない島の人たちは長年、事故の不安とともに生きてきました。島の人たちの悲願だったのが、島と本土をつなぐ橋です。45年前に原発の建設が決まってから、事故が起きた時の避難路を求めてきました。

離島と本土を結ぶ

 ようやく2017年に工事が始まった待望の橋は、2023年11月につながりました。2024年12月19日の開通に向け、舗装工事が進んでいます。
 この出島大橋は、全長364メートルのアーチ橋で、接続する道路も含め約3キロの道路で総事業費170億円が投じられました。

 原発の再稼働と橋の開通を目前に控え、今島の人たちは何を思うのか。10月2日に出島を訪れました。
 高野信さん(66)「きょうはわざわざ出島へおいでいただきまして」
 高野さんは福島県の中学校の元教員です。島の風景に魅かれて、2023年7月に住民になりました。島の魅力を伝える活動を続けています。

 島に来たのは7年前です。唯一残った民宿の再建を営業担当として手伝い、島トレッキングコースの整備など観光振興にも関わるようになりました。
 高野信さん(66)「あそこにもあるし橋は4つある。だからすごく眺めが良く自転車で来たら最高なんじゃないかな」

離島の魅力を伝える

 島の生活は古くから海とともにありました。主要産業は漁業でギンザケやホタテ、ホヤ、ワカメなどの養殖が盛んです。
 穏やかな島の営み。春には例大祭で島全体が盛り上がり、島の小学校と中学校には子どもたちの歓声が響いていました。

 しかし、それが一変したのが東日本大震災でした。海岸沿いの集落が津波で壊滅し、島民は全島避難を余儀なくされました。
 高台に復興住宅が建てられましたが、震災前に約500人いた人口は91人と、この13年で5分の1に激減しました。高野さんは、橋の開通が島の観光にも役立つと感じています。
 高野信さん「多くの人が集う島にしたい。橋も架かったことだし、すごく眺めのいい橋ですからね。せっかくあれだけのお金をかけて造ったものを、やっぱり有効に活用したいと思っている」

 高野さんが再建を手伝ってきた民宿いずしまは、目の前に牡鹿半島と太平洋の絶景が広がります。ただ、宿のすぐ上からは女川原発の防潮堤など近代的な構造物が常に視界に入ります。
 高野信さん「(風景の)違和感はもちろんあるんだよね。女川の町の人たちは全然原発を意識しないで済んじゃうのが、出島は目の前に見えている」

橋の開通でビジネスを

 2024年8月、民宿は赤字経営が続き再び休業になりました。今、民宿は生まれ変わろうとしています。町の地域おこし協力隊の若者2人が買い取り、サウナを開業しようとしています。大山海渡さん(30)は、出島大橋の開通はビジネスチャンスと感じてています。
 大山海渡さん「やはり船だけで来るのはなかなか大変な場所でもある。島でありつつ車で来られるのが、自分たちにとっては良いところだと思いました」

 原発の再稼働は賛成の立場ですが、事故が起きないことだけを願うといいます。
 大山海渡さん「色々な方の思いがあって造り上げたサウナのある島を津波とか自然災害で、原発が原因で人が立ち寄れなくなるのはすごくショックなことなので、そういうことがないように対策してほしい」

 昔から島に住む人たちにも話を聞いてみましたが、皆再稼働のことになると撮影を断り、口が重たくなります。共通するのは、事故だけは起こさないでほしいという願いでした。
 高野信さん「東北電力が原発を造ったおかげで本土から水道が来たとか。あるんですよ。生活の利便性はそれで変わったっていうのが。橋の実現だって、避難路って、原発があったからこそっていうのはあるし」

「島に生きるということは、そこはもう覚悟しないといけない。島の人もそのへんは覚悟しているような気がします。やっぱり橋造ったから安心なんてことは全然ないし、身近に生きる者として覚悟を決めるしかないのかなって思ってます」

女川原子力発電所

 島の人たちが最も危惧することが原発の重大事故ですが、一方で再稼働に向けた準備が進む2号機では、トラブルが相次いでいます。
 9月13日には原子炉建屋内で非常用設備が計画外に作動したほか、9月19日には燃料制御棒を動かす水圧系統の設備で水漏れが起きました。

 東北電力は、女川原発で働く技術者約500人のうち4割ほどが原発の運転が未経験だと明かしています。
 東北電力樋口康二郎社長「安全対策に終わりはないという気持ちを持って、安全最優先で発電所運営をしていきたいという気持ちを持っていますし、当然機械を動かすのは人でありますから人材の育成もしっかりやっていく必要があると思っています」

 13年ぶりの再稼働直後の出島大橋の開通。たまたま同じタイミングですが、「不安」という負担がある人たちには「恩恵」がある。原発政策の縮図のように感じました。

 東北電力は女川原発2号機について、10月29日にも原子炉を再稼働させ、11月には発電を開始する予定です。