トランプ政権は4月5日、相互関税の第1弾を発動させ、カナダやメキシコなどを除くほぼ全ての国・地域からの輸入品に対して一律10%の追加関税を課した。9日には、第2弾として、米国の貿易赤字額が多い約60カ国・地域からの輸入品の追加関税の税率を上乗せた。中国に対する税率は84%に設定され、中国への追加関税は、既に発動していた20%を含め累計104%となった。中国政府は10日、報復措置として、米国からの輸入品に対する84%の追加関税を発動した。しかし、トランプ氏は発動から約13時間後、相互関税の上乗せ分を90日間停止する軌道修正を決めた。一方で、トランプ氏は報復措置で対抗する中国への相互関税を125%に引き上げた。既に発効している追加関税と合算すると計145%となる。さらに、中国政府は11日、米国への追加関税を125%に引き上げると発表した。トランプ氏は10日の閣議で、一部関税の90日間停止を決定した影響について、「移行上の困難がある」と慎重な姿勢を示しながらも、「歴史的に見れば市場にとって史上最大の日になった。我々は世界に対して公正な扱いを求めている」と述べた。
トランプ氏の高関税政策が世界の金融市場に深刻な影響を及ぼし、株式市場は激しい変動に見舞われている。米国をはじめとする主要市場では警戒感が強まり、株価の乱高下が続いている。トランプ氏が4月2日に相互関税の導入を表明した後、景気後退への懸念が急速に広がり、株式市場には売りが殺到。主要株価指数であるダウ平均株価は急落した。しかし、9日にはトランプ氏が追加関税の一部を90日間凍結する方針を発表。これを受け、市場には一時的な安心感が広がり、株価は急反発した。11日の外国為替市場では、円相場が一時1ドル=142円00銭台まで上昇。また、ドル売り・ユーロ買いが加速し、ユーロは対ドルで一時、1ユーロ=1.135ドルを記録する場面も見られた。市場関係者は、「先行きの不透明感はなお根強く、来週以降も株価の激しい変動が続く可能性が高い」との見方を示している。
トランプ氏が相互関税上乗せ分の90日間凍結を決定した背景には、相互関税の表明直後から続く金融市場の動揺が影響していると指摘されている。米CNNは4月9日、ベッセント財務長官がトランプ氏に対し、国債市場の混乱とそれに伴う懸念を報告したと伝えた。トランプ氏は同日、「債券市場は厄介だ。人々が少し行き過ぎていると思った。神経質になり少し怖がっていた」と述べ、金融市場の混乱に対する配慮を示唆した。米国債価格の下落による金融不安のリスクが、この決定に大きく影響した可能性が高いとみられている。関税措置による市場の混乱が続く中、米国債の売却圧力が高まり、利回りが急上昇。これにより、安全資産とされる米国債の信頼性に対する市場の疑念が強まっている。
米中間の貿易戦争の激化が、両国経済に深刻な打撃を与えるとの懸念が高まっている。米カリフォルニア大学サンディエゴ校「21世紀中国センター」のビクター・シー所長は、米中貿易戦争の影響について、「中国全土で数百万人の失業や企業の連鎖倒産を引き起こす恐れがある」と指摘。さらに、「関税措置が長期化した場合、米国から中国への輸出が事実上ゼロに近づく可能性もある」と強い懸念を示した。一方、米ケンタッキー州の農家は、関税措置の長期化により、経営継続が危ぶまれる状況に直面している。ケンタッキー州大豆協会の会長は、「多くの農家が廃業に追い込まれる危機に瀕している」と警鐘を鳴らした。第1次トランプ政権下での米中貿易戦争では、米国の農家が数十億ドル規模の損失を被った前例があり、今回の事態への不安が増幅している。
そうした中、米国のCBP(税関・国境取締局)は11日夜、スマートフォンやノートパソコンなどの電子機器や半導体製造装置を「相互関税」の対象から除外すると通達を出した。 トランプ政権による中国への追加関税が145%となったことで、中国で組み立てられたアップル社のiPhoneなどの価格が大幅に値上がりすることに、消費者から懸念が出ていたため、今回の決定は消費者の反発を回避する狙いがあるものとみられる。
★ゲスト:ジョセフ・クラフト(経済・政治アナリスト)、柯隆(東京財団政策研究所主席研究員)、小谷哲男(明海大学教授) ★アンカー:杉田弘毅(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)