高度な職人の技と150年以上の伝統を誇る、仙台箪笥です。生活様式の変化で需要が減る中、海外への販路拡大に活路を求め動きだした人たちがいます。
仙台箪笥協同組合の湯目吏吉也さん。仙台箪笥の伝統を守るための新たな道を模索しています。
仙台箪笥協同組合湯目吏吉也事務局長「一つ一つ作り手さんの思いが伝わるっていう温かみがあるっていうのが一番ですかね」
仙台箪笥は武士の刀や羽織を納める道具として江戸時代末期に誕生し、2015年には国の伝統的工芸品に指定されました。
仙台箪笥には昔ながらの高度な職人技が施されています。木の性質を見極めて箪笥を組み立てる「指物」、漆を何度も重ね木目を美しく見せる「漆塗」、そして繊細で豪華な模様を打ち出す「金具」。
金具職人の八重樫榮吉さんは、仙台箪笥の金具を60年以上作り続けています。鏨(たがね)という道具を使って厚さ1.2ミリの鉄の板を打ち出し、龍や牡丹、唐獅子などの模様を描いていきます。
八重樫仙台タンス金具工房八重樫榮吉さん「裏にこういう線が残るように。途中で消えたのでは分からないから。このはたきの力加減があるの、模様を出すのに。それが大事なの」
1日に2万回も叩くこともあるといいます。打ち出しが終わると、やすりで角をならす作業です。真剣なまなざしで全て手作業で仕上げていきます。
八重樫仙台タンス金具工房八重樫榮吉さん「機械でやったやつは、こういう味が出てこないの。やっぱり手と違うんだね」
しかし、生活様式の変化に伴って箪笥の需要は減り職人の数も少なくなりました。150年続く仙台箪笥の伝統を絶やしたくない。そこで湯目さんたち組合が注目したのが海外です。
仙台箪笥協同組合湯目吏吉也事務局長「輸出先というところでドイツ、北米、イギリスといった表記がありました。ちょうどこれなんかは大正14年(1925年)で海外輸出箪笥用の金具」
実は、仙台箪笥は明治時代から大正時代にかけて海外に盛んに輸出されていました。高級な美術家具として外国人の人気を集め、明治37年(1904年)の資料によると、当時、海外向けの生産数は1カ月150棹。
そのうち3分の1が輸出され、3分の2が日本に駐留する外国人向けでした。
過去に海外で受け入れられた仙台箪笥を今、再び海外で販売できないか。
仙台箪笥協同組合湯目吏吉也事務局長「技術を守り、新しい製品を作りたい」
湯目さんたちは1月、パリやロンドンの日本の工芸品を扱っている店舗などを訪れ、海外のライフスタイルや仙台箪笥の需要について現地調査しました。
仙台箪笥協同組合湯目吏吉也事務局長「(金具を)全て鉄板から作っているってお話をすると、すごく顔を近づけてじっくり見ていただくような姿がありました。技術の高さであったりとか仕事の丁寧さっていうのを分かっていただけるっていうのはすごくうれしかったですね」
技術の面で評価される一方、クローゼットに洋服をしまうヨーロッパの生活様式に、今の形の仙台箪笥をそのまま受け入れるのは難しいという指摘も受けました。
「(フランスでは家具を)装飾的な意味で買うから、全部の家具をそろえる人は少ないし、10年くらい経ったら飽きてくるかもしれないから、それをベースに考えるとそんなに(価格が)高くても(売れない)」
価格を抑え、デザインをシンプルにして日常使いできるものを作ることができれば、海外で販売できる可能性があるとアドバイスを受けました。
日本の工芸品販売店のオーナー「漆の使い方、または組み立て技とかは独特の日本の職人の技なので、それをちょっと変わった形の物にすればもっと広い方たちに受け入れられると思います」
現地で得た様々なアドバイスを元に、湯目さんは大事なものをしまうという箪笥本来の役割を残しつつ、海外のライフスタイルに合わせシガーケースや時計入れなど、新たな商品の開発に取り組むことにしました。2023年度中には海外の展示会に出品することを目指します。
仙台箪笥協同組合湯目吏吉也事務局長「多分やり方の正解ってまだ分かってはいないんですけれども、今回も海外にっていうのは一つのチャレンジにはなるんですけれども、昔ながらの仙台箪笥を残すために私ができることをやっていきたいなとは思ってますね」