岸田総理大臣が、来月の自民党総裁選挙に立候補せず、退任する意向を明らかにしました。賃金の引上げなどで一定の実績を残す一方、政治とカネという自民党にはびこる“持病”にメスを入れることはできませんでした。来月の総裁選は、自民党が再生できるかどうかの試練となります。

■なぜこのタイミング?真意は…

官邸キャップの千々岩森生記者に話を聞きます。

(Q.なぜこのタイミングでの不出馬表明になったのでしょうか)

千々岩森生記者 「実は、6月の通常国会会期末の時点で、岸田総理は不出馬に大きく傾いていました。その後も出馬に向けて準備をする形跡はありませんでした。理由の1つは、岸田総理自身も言っていましたが、裏金問題です。『民間企業でこれだけ不祥事を起こせば、社長が当然、責任を取るでしょ』という声は、岸田総理自身も非常に気にしていました」

千々岩森生記者 「もっと大きな理由は、もし総裁選で再選されても、自分が衆議院の解散・総選挙に打って出れば、自民党は議席を大きく減らすことを自覚していたことです。岸田総理は側近に対し『多くの仲間を落選させるわけにはいかない』という主旨の話を繰り返していました。7月から8月にかけて外交日程が目白押しだったので、終わるまでは辞めるとは言えません。外交日程が一段落したまさに今がタイミングだったと思います」

2021年10月に総理大臣に就任してから約3年です。14日の会見で、岸田内閣の成果と積み残した課題について、岸田総理はこう述べました。

【成果】 賃上げ・投資促進 大規模な少子化対策 防衛力の抜本的な強化 G7広島サミットの開催 日韓関係の改善 など

【課題】 政治資金パーティーをめぐる“政治とカネ”の問題。自民党所属議員が起こした重大な事態について、トップとしての責任を取る 拉致問題の解決を含む日朝関係 憲法改正 など

(Q.岸田総理の3年間をどう振り返りますか)

千々岩森生記者 「岸田総理は、これまで歴代総理ができなかった政策を“するすると”“ふわっと”前に進めてきました。この“するすると”というのが、岸田流の独特な政治手法でした。安倍元総理や菅前総理は『強いリーダー像』を掲げていました。一方、岸田総理は感情を表に出さない、キレない、いわば『ソフトなリーダー像』。当初は好感を持たれ、最初の1年は支持率も50%前後と高いレベルにありました」

千々岩森生記者 「外交安全保障でも防衛費の倍増、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有と、賛否が分かれる、政権が潰れてもおかしくない課題がありましたが、ソフトかつ国会質疑でもキレない岸田型リーダーシップでするすると進めてきました。経済でもマイナス金利から金利のある世界に。これも賛否ありますが、するすると転換。実質賃金も最終的には6月にプラスへ転じました」

(Q.“政治とカネ”の問題ではもっと明確な強いメッセージを発しても良かったのではないでしょうか)

千々岩森生記者 「まさにその通りです。政権の後半、特に裏金問題が浮上してからソフトさが機能しなくなってきました。本来であれば、同じ党内でも切るべきは大胆に、冷徹に切らなければいけない。裏金が議員の実質的な所得になっていた疑いもあったなかで、何らかの形で税金を納めさせる必要もあったでしょう。大ナタを振るうには『強いリーダーシップ』が求められましたが、政権基盤の弱さも相まって、世論の理解は得られませんでした。3年間を見て来て、岸田流リーダーシップの明と暗を見た気がします」