1冊の漫画で子どもたちを笑顔にした伝説の書店が62年の歴史に幕を下ろしました。

 東日本大震災直後の仙台市で店頭に張り出された1枚の貼り紙。地震と津波による壊滅的被害。物流は滞り、量販店などには長蛇の列が…。

 しかし、並んだところで手に入らない状態が続いていました。そうしたなか、これが手に入ったのです。

 「少年ジャンプ、3月17日発売号、読めます!!1冊だけあります」。

 ある客が県外で買った最新号。それを譲り受け、子どもたちに読んでもらおうと店内で公開しました。

塩川書店 塩川祐一店長 「本当に暗いニュースばかりで子どもたちも笑わなかったが皆、並んでそのジャンプを読んで笑う。自分もその中にいるので本当にうれしかった」

 書店の近くに住んでいる男性。13年前、ここで伝説のジャンプを読んだ1人です。

幕井成亜さん 「(当時)このくらいの身長で、横に弟がいてこうやって(読む)」

 当時は小学6年生。ここで漫画の世界に没入することが唯一の救いだったといいます。

幕井成亜さん 「余震もずっと続いていたので怖くて、でもここでジャンプを読んでいる間は怖さを忘れられる。心の支えはジャンプしかなかったかもしれない」

 地域の人々のよりどころだった塩川書店。今月1日、本の撤去作業が行われていました。

 空っぽになった本棚。先月いっぱいで店を閉めたのです。

塩川書店 塩川祐一店長 「あしたからこの本はないわけで、自分の人生にも本はないので。本とお別れするのがやっぱり寂しい」

 先代が1962年に店を開いてから62年。ネット通販や電子書籍の普及という時代の波にあらがうことはできませんでした。

 店の入り口には、あの日と同じように店長が書いた貼り紙が掲げられています。

 「精一杯やった!という気持ち!!ここまでだ!という気持ち」。

 常連客も別れを惜しんでいます。

常連客 「(夜)ここが明るく光っていて安心感があったので、すごく寂しい」

 日も傾き、残り時間もわずかになりました。

塩川書店 塩川祐一店長 「本当に皆様の支えがあって(父を継ぎ)43年間できたと思っています。本当にありがとうございました」