【羽生結弦さんkhb独占インタビュー】

 2025年1月4日(土)にkhb東日本放送で放送された「スポーツのチカラで宮城をもっと熱く 独占!羽生結弦30歳の誓い」で、プロフィギュアスケーター羽生結弦さんが「これまで と これから」について語りました。聞き手は、同じ仙台市出身で元プロ野球選手の江尻慎太郎さんです。

 ▼同じ仙台市出身の江尻さんとの意外なつながり

羽生
 失礼します。こんにちは。初めまして。羽生結弦と申します。
江尻
 江尻慎太郎と申します。今日はよろしくお願いします。私、元々プロ野球選手をやっていて。
羽生
 身長大きいですね。※小さくジャンプしながら
江尻
 そんなに飛ばないでください。まだ飛ばないでください。たくさん飛んだの見てきましたけども。

江尻
 改めてよろしくお願いします。今ね、仙台トークで盛り上がらせていただいたんですけどね。
羽生
 地元って感じですね。はい。 
江尻
 ちょっと私のご褒美からいただいていいですか?さっきパワプロで使ってたと。
羽生
 そうパワプロで江尻さん使ってました。 
江尻
 パワプロで江尻使っちゃだめ!打たれるから!
羽生
 そんなことない。パワプロはプレイヤーの腕次第で何とでもなります。
江尻
 やさしいなぁ

▼2024年12月7日 羽生さん30歳に

江尻
 30歳になられて。12月7日。おめでとうございます。
羽生
 ありがとうございます。
江尻
 「30歳っておっさんじゃんと思っていた頃があったけど、実際なってみると、全然違った」というようなことをおっしゃってましたけど。
羽生
 僕何かのインタビューで、30歳の時の自分おっさんだなって言ってて、いやいざなってみたらですよ。全然体動くし、野球選手で言うところの、まだ球速上げられるなっていう。江尻
 なんでオープニングトークから野球に例えるんですか…(笑)
羽生
 野球好きなんですよ!(笑)
江尻
 想像していた30歳とのギャップを、どういったところに感じていますか?

羽生
 そもそもフィギュアスケートの選手寿命的なものって、だいたい長くやっても25歳くらい。本当にピークは21歳とか22歳とか。女子の選手だともっと早くて、本当に16歳とかでピークを終えてしまう選手もいらっしゃいますし、本当に選手寿命が短い競技なんですよね。
 そういった点から自分が30歳ということを想像していたときに、まさかこんなにまだまだ技術的にも充実しながら、演技をしているとは思っていなかったですし、まさかまだまだ伸びしろを見つけながら、まだその伸びしろに手を伸ばせるということが起きるとは思っていなかったですね。

▼プロ転向3年目 探求心はより大きく

江尻
 プロに転向したことで、自分に対する見方が変わったりだとか、こんな伸びしろがあったんだということに、たくさん気付いたのでは?
羽生
 僕がフィギュアスケートをやっていくに当たって、バレエとかダンスをほぼ独学でやってきている。フィギュアスケートの選手ってバレエを習う人もいるんですけど、僕は習ってなくて、振り付けの先生に言われたままでやってきた。それが「基礎ってこんなに大事じゃん」ということに今更ながら気付きはじめ、ダンスだったり表現だったりを基礎から学んだらまた違くなるよねという伸びしろを感じつつ、トレーニング方法や筋力面、アスリートの部分においては、フィギュアスケートって、日本では知っている方はたくさんいらっしゃいますけど、競技人口的にもマイナーなんですよね。間違いなく。
 それこそ野球だったら、ストレートの回転数が何回転だとか、軸がどれくらいの角度でどうなっているとか、オーバースローだったら、どれくらいの腕の角度で、どれくらいしならせればいいのかとか、そういうデータが出せるじゃないですか。フィギュアスケートは出せないんですよね。競技特性上、どうしても30メーターと60メーターという広いリンクを、あまりにも縦横無尽に動いてしまうので、データ取るの本当に難しいんですよね。
 ただ、データはちゃんと取れないかもしれないけども、トレーニング方法として、いわゆる昭和の時代だったりとか、平成初期とか、そこから何も変わっていないことが多いのが、フィギュアスケートの現状だったんです。科学的に証明されていないマイナースポーツだからこそ、より一層、僕が率先して、開発していけば、もっともっとトレーニング方法いろいろあるし、もっともっとうまくなる方法がたくさんあるんだなっていうのに気付けたこの3年間でしたね。
江尻
 うわぁ…伺いたいと思ってたところよりも、めちゃくちゃ深いところからきて…。

▼最新単独公演「Echoes of Life」について

羽生
 大学の時に、生命倫理っていう授業を履修して、そこからその哲学って面白いねって思い始めて。僕が生きていく中で、震災のこともありましたし、日々、世界情勢も変わっていく中で、今の世の中に僕が発信したいことって、命に対する考え方の哲学であったりとか、向き合い方みたいなことをテーマに、表現していきたいなって思ったのがキッカケでした。
江尻
 もうひとりの羽生さんなのかな?羽生さんぽい人と、語りかけ合う、問いかけ合う。生きるとは、それをまた返してくれない。で、また考えさせるっていうところで、僕はずっとこう引っ張り込まれてですね。
羽生
そこは渡してはいけないところだなと。あの物語の主人公は、こういう風に思っているんだよっていうのを渡してあげちゃうと、そこに縛られてしまうんだろうなというのがあったので、そこは哲学の基盤に立ち返って、全部は渡さないように。で、考えて考えて、その考える時間を、フィギュアスケートの音楽であったり、僕の演技であったり、そういったところから、自分の経験とか過去とかを想起させながら、考える時間を作ってあげてっていうエンターテインメントにしましたね。

▼2時間半超を1人で演じ切る単独公演にはハードな練習が必要

江尻
 オリンピックのとき以上にもっとハードな中で、すごいトレーニングをされているんだと思う。体のつくり方とかもだいぶ変わっているところありますか?
羽生
 すごくマニアックな話しをすると、その短距離選手が持っている筋肉と、マラソン選手が持っている筋肉のハイブリッドを目指し続けなきゃいけないなっていうので、難しいですよね。
江尻
 このトレーニング、体、持ちます?
羽生
 持たないですって!本番足つってましたもん(笑)
江尻
 ですよね。公演の最後、よく立ってくれているなと。こんなにハードなんだと感じた。
羽生
 でもやっぱり、下手したら命懸けというか、そのくらいの気概でやってるからこその、感動と伝わる表現と、それがいわゆるアートだけじゃなくて、×(かける)スポーツっていうものの感動なんだと僕は思います。 

▼30分間休み無しから挑む五輪ショートプログラム「バラード第1番」

江尻
 埼玉公演の初日、2日目と、バラードの1番でちょっとミスする場面が。
羽生
 いやちょっとじゃないですよ。あれはちょっととは言えない。あれオリンピックでやったら負けてるんで。
江尻
 間違いなく挑戦し続けているという姿がすごく印象的で。悔しかったんだろうなと…。
羽生
 本当悔しかったですし、でもそこで悔しいと思えるのって、それだけ本気でそこにぶつかっているから悔しいって思えるし、そこに対してすぐ分析するわけですよ、反省会が始まって、ここがこうだった、あれだったと。で、最終的に最終日にノーミスできるという。本当にオリンピックで勝つための構成なのであれは。それを、大会では1日1回、2分50秒(バラード第1番の時間)をやればよかったのを、今はその前に30分くらい滑っているんですよ。そりゃしんどいだろと!
江尻
 そうですよね。
羽生
 だから抑え投手のクオリティを、先発しながらやんなきゃいけないんですよ。
江尻
 それは…すごいんですけど…全部野球で例えてくる!(苦笑)
羽生
 中1日で先発本気投げみたいな(埼玉公演は中1日で3公演)。しんどいでしょ!しんどいんですよ(笑)!日本シリーズの抑えですよ。だってオリンピックのショートプログラムですもん。そりゃしんどいだろうと、思いながらも、そのしんどさと、限界を絶対に超えているだろうなみたいなところに挑戦し続けるからこそ、そこに感動が生まれるというのは、間違いなくあるんだと思います。

▼羽生さんが感じてきた「スポーツのチカラ」 

江尻
 番組タイトルが「スポーツのチカラで宮城をもっと熱く」ですが、スポーツにはどんなチカラがあると思いますか?一言で言うと。
羽生
 命懸けって感じですかね。決死の戦いというか。勝ちか負けか、成功か失敗かっていうのが、スポーツって常に明確に存在するんですよね。そこに対してどれだけ頑張ってきたかっていうことが、その一瞬で見えてしまうのがスポーツだと僕は思ってるんですよ。で、その過程だったり、その結果をもぎ取るための、その人の人間性みたいなものに僕らは感動して、力をもらえるんだろうなって思っています。
江尻
 羽生さんが与え続けているものと、そして羽生さんもそんなにスポーツのチカラを受け取っていたんだと。
羽生
 でも2011年の時の、あの頃の楽天とベガルタは本当に魂でしたよね。いまだに忘れないですあれは。震災のとき、僕らはものすごくチカラをいただいたんですよね。そういう存在として、頑張り続けたいなというのは、自分の芯の中に常にあります。

▼30代も命懸けで挑み続ける

江尻
 30代を迎えられた羽生さんですが、これからどんな道を歩んでいきたいですか?
羽生
 とにかく、まだまだできることがたくさんあって、まだまだやってこなかったこともたくさんあって、未知の世界に今、足を踏み入れているんだっていうワクワク感はたくさんあります。もちろんその中で、作り上げていったり、誰かに演技を見せるということは、プレッシャーにもなるんですけど、やっぱり期待してくださる限りは、自分のそれこそ命がけな演技をずっとずっと続けていきたいなっていう気持ちでいます。