日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの約2.2兆円に及ぶ巨額買収は、米大統領を相手取る法廷闘争に発展する異例の事態となった。バイデン米大統領は1月3日、USスチール買収について、大統領令で禁止を命じた。これを受けて、日本製鉄とUSスチールは6日、対米外国投資委員会(CFIUS)とバイデン大統領を相手取って、無効を求める訴訟を起こした。また、両社は、買収を阻止するために共謀して、組織的な違法活動を行ったとして、米鉄鋼大手クリーブランド・クリフス社の最高経営責任者や全米鉄鋼労組の会長らに対して、損害賠償を求めた。クリーブランド・クリフス社のゴンカルベスCEOは、「訴訟の準備は整っている」と、争う姿勢を示した。日本製鉄とUSスチールは12日、バイデン米大統領の買収禁止命令で原則30日以内の買収計画放棄を求められていた期限について、対米外国投資委員会(CFIUS)が6月18日までの延長を認めたと明らかにした。

バイデン大統領は3日、日本製鉄によるUSスチール買収中止の命令を発出したことについて、「USスチールの買収は、米最大の鉄鋼メーカーの1つを外国の支配下に置き米国の安全保障と供給網の維持にリスクをもたらす」と指摘したうえで、「国家安全保障を損なう恐れがある」と語った。バイデン大統領から、買収禁止命令を出すも具体的な説明は一切なかった。日本製鉄の橋本英二会長兼CEOは7日、「トランプ大統領がずっと言っているのは、製造業をもう一度強くしたい。白人労働者を中心として、製造業の労働者にもう一度、豊かな暮らしと明るい未来を与えたいという趣旨。その趣旨に(買収提案は)沿っているわけですよ、まさしく、それを説明することで理解を得られる」と語った。USスチールのディビッド・ブリットCEOは3日、「間違いなく、この投資こそがUSスチール、従業員、地域社会、そして、我が国の素晴らしい未来を保証するものだ」とした上で、「バイデン大統領の決定は、労働組合のボスに政治的見返りを与える恥ずべき行為で、腐敗した政治と戦う」と声明を発表した。

USスチールは、1901年創業の製鉄会社で、従業員約2万人を抱え、かつては世界最大のスケールを誇った。本社は、大統領選の激戦7州の一つ、ペンシルベニア州のピッツバーグ市に置かれている。粗鋼生産量ベースで、世界24位のランキングにあるが、2023年8月に、身売りを含む経営の見直しを表明していた。同年12月には、日本製鉄が141億ドル(約2.2兆円)で買収する計画を発表していた。

★ゲスト:一柳朋紀(鉄鋼新聞社代表取締役社長)、小谷哲男(明海大学教授) ★アンカー:杉田弘毅(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)