東日本大震災を機に、災害時に行方不明者を捜索する災害救助犬の育成を始めた男性がいます。愛犬と共に訓練を続けるその思いに迫りました。

 仙台市青葉区の東北文化学園大学。キャンパス内で訓練を行うのは2021年、災害救助犬の試験に合格したメスのラブラドルレトリバーのビアンカ(5)と、その飼い主でこの大学の経営法学部長である岡恵介さんです。

災害救助犬の訓練

 災害救助犬は、地震や台風、土砂崩れなど、災害で行方不明になっている人を優れた嗅覚を駆使して捜索するために特別に訓練された犬です。災害救助犬を認定する試験は複数の団体が実施していて、合格率は約30%と狭き門です。ビアンカが所属するジャパンケネルクラブには、現在出動可能な災害救助犬が142匹います。

 まだ災害現場での捜索経験の無いビアンカ。日々の訓練が欠かせません。この日行うのは捜索訓練。芝生に並べた4つの段ボール箱の中から、行方不明者役の学生が入っている箱を匂いで捜し当てます。
 岡さんの合図とともに、勢いよく飛び出したビアンカ。一つの箱の前でほえ始めました。学生を見つけ出し、ご褒美のおやつをゲット!
 東北文化学園大学経営法学部長岡恵介さん「隠れてる人を見つけて、そこでほえて知らせるとおいしいおやつがもらえる、普段よりももっとおいしいおやつがもらえる楽しいゲームとして犬は捉えています。捜索をやることが楽しいと思うことが、とても大事なことになります。それが犬の動機になっているので」

ビアンカの母親 ルカも災害救助犬として活躍

 岡さんが災害救助犬を育てるのはビアンカが初めてではありません。ビアンカの母、ルカ(12)も元救助犬として訓練を積んできました。
 東北文化学園大学経営法学部長岡恵介さん「2歳過ぎて3歳近くになってから災害救助犬の練習を始めたんで、その分スタートは遅かったんですけども、おやつのためだったら頑張れる子なんです。だからある意味訓練しやすい」

北海道の地震で行方不明者の捜索

 ごく普通の飼い犬だったルカ。災害救助犬を目指すきっかけとなったのは、東日本大震災でした。新幹線や高速道路が不通になり、当時住んでいた盛岡市から大学に通えなくなった岡さん。ルカを遊ばせようと訪れたドッグランで、一匹の災害救助犬に出会います。
 東北文化学園大学経営法学部長岡恵介さん「実際に震災で出動した災害救助犬が帰ってきて、リラックスする意味もあってドッグランに来てたんですね。同じ犬種ですし、もしかしたらうちの犬もできるのかなと思いまして」

 当時2歳だったルカを訓練士の下に通わせ始めると、ある変化が現れます。
 東北文化学園大学経営法学部長岡恵介さん「びっくりしたのは、ルカが(訓練を)とても楽しみにしてるんですね。訓練士さんが迎えに来てくれるんですけど、そのエンジンの音で訓練士さん来たって玄関まで行って、早く行きたいってなってるんで、そんなに好きなら頑張ってやってみてっていうそんな感じだったですかね」

困った人たちの手助けに

ルカとビアンカ

 訓練を開始して3年ほど経った2014年、ルカは2回目の挑戦で災害救助犬の試験に合格。また、岡さんも現場で指示を出すハンドラーになるため訓練を積み、2015年に試験に合格しました。
 2018年9月に北海道で最大震度7を観測する地震が発生した際には、ルカと共に行方不明者の捜索に加わりました。
 東北文化学園大学経営法学部長岡恵介さん「災害に遭われたご家族の方たちが、心配して見守っている中で捜索するっていうのはすごい緊張感があって、何とか捜して見つけてあげたいというふうな思いで捜索していました」

 12歳のルカは高齢のため2021年に災害救助犬を引退し、現在は岩手県警の嘱託警察犬として訓練を続けています。災害救助犬としてルカの後を継いだビアンカ。1人でも多くの命を救うために。
 東北文化学園大学経営法学部長岡恵介さん「困った人たちがいる時に、何か手助けになるようなことができれば、しかも、それが犬の優れた嗅覚を使ってそういうようなことができれば、自分はそういうふうに犬との関わりを持っていきたいと思ってますね」