貝毒の被害で、出荷規制が続くアカガイについてです。宮城県を代表するブランド食材ですが、今シーズンの操業は今のところわずか4日です。

 名取市の閖上漁港。本来ならばこの時期、水揚げに湧くはずの港は静けさに包まれています。漁協の組合長で、アカガイ漁師の出雲浩行さん(58)は、前の日に採ったアカガイを検査に出す作業に追われていました。
 アカガイ漁師出雲浩行さん「(数値が)下がってくれーって。下がってくれよーって(検査に)出すだっちゃ」

 宮城県を代表するブランド食材で、味や香りが日本一と称される閖上のアカガイが今シーズン窮地に立たされています。
 例年9月から6月にかけて行われるアカガイ漁。禁漁期間が明ける2022年9月を前にした検査で、国の基準を超える貝毒が検出さました。解禁初日から漁ができず、この半年弱で操業できたのはわずか4日間。水揚げは約3トンで、前のシーズンの同じ時期と比べて14%にとどまっています。
 アカガイ漁師出雲浩行さん「(漁ができる)10カ月のうち5カ月も今のところ休んでいるってことで、ちょっと苦しいね。厳しいなって気はしますね」

 アカガイなど二枚貝から検出されるまひ性貝毒は、有害なプランクトンを貝が食べることによって発生します。
 まひ性貝毒について、国は食品衛生法で出荷規制の基準を定めています。基準は、体重20グラムのネズミが15分で死に至る毒の量を示す、マウスユニットという単位で表されます。1グラム当たり4マウスユニットを超えると販売が禁じられ、そのあと3週間続けて基準を下回らなければ出荷できません。

 前のシーズンは国の基準を超えることはありませんでしたが、今シーズンは禁漁明けから数値の高止まりが続いています。
 更に宮城県は、安全性を高め産地のブランドを守るため30年近く前からより厳しい基準を課していて、3マウスユニットを超えると1週間出荷が禁じられます。
 閖上のアカガイで貝毒の検出が相次いだ2018年のシーズン以降で見ると、出荷できなかった週のうち約3割が県の厳しい基準によるものです。
 アカガイ漁師出雲浩行さん「閖上の漁業者からは3.5も何もいらなくて、国の基準の4まで上げてもらえば良いんじゃない?って声はかなり出てたんですね」

 出雲さんたちアカガイ漁師の間からは県の基準が厳しいとの声が上がり、2月から基準が3マウスユニットから3.5マウスユニットに緩和されました。
 県水産林政部長谷川新副部長「3から3.5に引き上げますと、それだけである程度操業できる時期が期間が増えますので、その点で当然安全を確保しながら消費者の皆さんに仙台湾のブランドアカガイを提供できる」

 ただ、県の基準は緩和されても、国の基準を上回る数字が続いています。漁協ではこの日、2キロのアカガイを検査に出しましたが、結果は4.3でした。
 アカガイ漁師出雲浩行さん「また駄目だったかー、また駄目だったかーって、そればっかりですよね」

 貝毒は、原因となる有毒プランクトンが増えることで発生しますが、なぜ増えるかはいまだに解明されていません。
 こうした中、東北大学では貝毒の抑制につながるかもしれない研究が進められています。
 海洋微生物学が専門の西谷豪准教授の研究グループは、2017年から深刻な貝毒の被害に見舞われた大阪湾の海水を詳しく調べました。すると、偶然にも有毒プランクトンに寄生する天敵のプランクトンを国内で初めて発見しました。

 東北大学大学院農学研究科西谷豪准教授「赤く見えているのが、全部有毒プランクトンのアレキサンドリウムというもので、まひ性貝毒の原因プランクトンと言われています。この培養液の中を緑の点々が泳いでるんですが、これは2019年に大阪湾から見つけた」

 有毒プランクトンに寄生する天敵のプランクトンは、侵入すると細胞を300から400まで増やし最後には死滅させます。
 東北大学大学院農学研究科西谷豪准教授「今、はじけましたね。寄生生物がパーンてはじけて、今ばらばらになって、次のホスト、有毒プランクトンに取り付く様子ですね」

 研究室では、発見したプランクトンを冷蔵庫で管理し培養。他のプランクトンへの影響がないことや、有毒プランクトンに最も寄生しやすいのは14℃であることを突き止めました。
 実験室レベルでは3日から1週間程度で有毒プラクトンがほぼ死滅し、自然界でも大阪湾の調査で70%余りに寄生することが分かりました。大阪湾では2020年以降、貝毒の被害は減少傾向にあります。
 東北大学大学院農学研究科西谷豪准教授「これがじゃあ、宮城の海にいるのかっていうのをそれ今、調べているんですけど一応我々調べたところいたんですよ、同じ種類が。でも、ものすごく少ない」

 西谷さんたちは今後、三陸の海で貝毒が出た海域の水を研究室に持ち帰り、実際に効果があるかや他のプランクトンへの影響がないか検証する予定です。
 東北大学大学院農学研究科西谷豪准教授「日本で、国内でこの寄生生物を持っているのはうちの研究室だけなので、なんとかうちの研究室がこれを使って全国の貝毒の被害を特に宮城県と岩手県ですね、貝毒の被害を減らしていけるようになれば良いなと思ってやってます」

 アカガイ漁師の出雲さんたちの模索も続いています。貝のどの部分に毒がたまりやすいか調べるため、身と肝の部分に分けて検査に初めて出しました。
 アカガイ漁師出雲浩行さん「貝毒のメカニズムもいまいち分からないので、そこをもうちょっと誰か研究してもらって、それでできれば無くなることが一番良いんだろうけど。(豊洲市場で)みんな待ってんだよっていうのは聞いてきましたので、やっぱり貝毒明けたら良い品物を採って送りたい」