東北電力女川原発2号機の再稼働をめぐり、宮城県石巻市の住民団体が差し止めを求めた訴訟の判決が24日に言い渡されます。避難計画に実行性はあるのか。原告の男性と裁判の争点についてです。

 原発から約20キロ、石巻市鹿又に住む原伸雄さん(81)。原発差し止め訴訟の原告団長を務めています。
 原伸雄さん「住民を被ばくにさらすような避難計画しかできていないにもかかわらず、それを再稼働するというのは許されないんじゃないかな」

 女川原発は、東日本大震災で被災しました。高さ14.8メートルの場所にあった原発は、約13メートルの津波に襲われましたが、外部電源が確保できたことで重大事故は免れました。

 女川原発は現在、3基全てが停止していて東北電力は安全対策工事を経た上で女川原発2号機を2024年の2月に再稼働する方針です。その日は目前に迫っています。
 東京電力福島第一原発事故の後、政府は全国の原発から30キロ圏内の自治体に避難計画の策定を義務付けました。

 宮城県やそれぞれの自治体の避難計画によると、原発から5キロ圏内のPAZと呼ばれる範囲の住民は事故が発生した場合は直ちに避難します。
 5キロから30キロ圏内のUPZの住人は、まず屋内で退避。放射性物質の飛散が過ぎてから車やバスで避難します。

避難計画の実効性は

 避難の対象となる住人は約20万人で、このうち7割が石巻市の住人です。
 原発から5キロから30キロ圏内に含まれる原さんは、屋内退避した後、車で80キロほど離れた柴田町に避難することになっています。原さんが避難に使う県道は、片側1車線で普段でも交通量が多い道路です。
 原伸雄さん「一刻も早く遠くに逃げたいというのが(避難者の)心理だからね。国や電力の説明のように渋滞は発生しないという言い分は成り立たないなと思いますよね」

 更に懸念しているのが、震災や台風など過去の災害で発生したように、道路が寸断した場合に避難ができるのかどうかです。
 原伸雄さん「避難と言ったって道路が寸断される中では、とてもじゃないけど一時集合場所に集まれだの検査場所にいけだの言われたってスムーズにはいかない」

 屋内避難を求める住人に対しては、車に放射性物質が付いていないか検査する退域検査ポイントを設けます。
 原さんは、約15キロ離れた美里町の南郷体育館で放射性物質の検査を受けます。しかし、ここにも問題が。
 原伸雄さん「検査場所の入り口としてもここ1カ所しかないんだよね。ここ1カ所しかない。だからこっちに来る車もある、向こうからも来る車もあるにしてもここで詰まってしまうからね」

 車の出入り口は1カ所のみで、1台にかかる時間は約3分ほど。仮に検査の人員や機材が不足すれば、避難所に向かう前に足止めされていまいます。
 原告団が県に情報公開した資料によると、検査場所は「数日後に開設される」とされています。

 宮城県や東北電力の職員が検査場所に到着する日数について回答を求めると、県は「日数を調査したことはない」「東北電力が調査したかも把握していない」と回答。
 原伸雄さん「改善修正では到底対応できない。根本からこの計画を立ち止まって見直す必要があると」

 渋滞に対応できるか。検査場所は機能するか。車の無い住人が避難するためのバスは確保できるか。避難計画の実行性が問われています。
 2021年5月、原さんら女川原発30キロ圏内に住む石巻市民17人は、東北電力に対し再稼働の差し止めを求め提訴しました。
 裁判では、避難計画に実効性があるか、住民への具体的危険が発生するかが争点となっています。

 被告の東北電力は、避難計画については「国に了承され、合理性が認められている」「放射性物質が放出される事故が起きる危険性を住民側が立証できていない」として、避難計画の判断にかかわらず棄却するよう求めています。
 東北電力樋口康二郎社長「安定供給の面では、原子力というのは必要。運転差し止め訴訟については、棄却されることを望んでいます」

24日に判決言い渡し

 国のエネルギー政策を左右する判決は、24日午前に仙台地裁で言い渡されます。
 原伸雄さん「今の避難計画では、あることの方が危険だという思いもしますよね。住民の命や健康を脅かす避難計画、これに司法にストップをかけてほしいと切に期待しています」

髙橋直希記者
 「これまでに、原発の運転差し止めを認める判決が出されたのは3例あります。
中でも水戸地裁は2021年3月、茨城県にある日本原子力発電東海第二原発について、避難計画の不備を理由に差し止めを認めた初めての司法判断となりました。
 水戸地裁判決では差し止めの理由として、周辺のほとんどの自治体で避難計画が策定されておらず、防災体制が不十分と指摘しました。
 ただ、今回の女川原発については周辺自治体が避難計画を策定済みで、政府が了承しています。更に、国の安全審査に合格していて、再稼働に向けた工事が進んでいます。
 仮に仙台地裁が国がお墨付きを与えた避難計画の不備を認めれば、他の原発の避難計画への影響が大きくなることは間違いないと言えます。
 注目の裁判、判決は24日午前11時に言い渡されます」