老朽化しつつある県営住宅について、宮城県が順次廃止を検討して集約する方針を示し波紋を広げています。

 仙台市泉区にある築60年ほどの県営黒松第二住宅。75歳の赤間直美さんは3Kの間取りの部屋で暮らしています。所得に応じて決まる家賃や駐車場の負担は、月約2万円。
 赤間直美さん「年金生活者にとって、県の公営住宅に入居できることはとてもありがたい」

 ここでの暮らしは半世紀に及び、育て上げた男女4人の子どもたちは首都圏や九州にいます。夫を15年ほど前に亡くし、今は1人暮らしです。
 赤間直美さん「仙台生まれの仙台育ちだし。自分の人生を(ここで)使い切りたい」

「人生を県営住宅で使い切りたい」

 平穏な暮らしに影を感じたのは、1月のある夜のことです。
 赤間直美さん「夜8時ぐらいかな。ドアポストのカタンって音がしました。A4の紙1枚が落ちていました」
 投函されたのは、県営住宅の集約方針を知らせる紙でした。
 赤間直美さん「え、これって何?どういうことって」

 県は、県営住宅が老朽化しても建て替えはせず、残る耐用年数が10年ほどになったら廃止の検討に入ります。
 県営住宅は101カ所。このうち、まずは6カ所について10年後をめどに廃止する方針で、その一つに黒松第二住宅が挙げられました。
 村井宮城県知事「新たな安全な場所に移っていただいて、できるだけご要望に沿った形で移転していただいて、古い建物については少しずつ処分していくということであります」

 宮城県の人口は減り続けていて、仙台市の人口も数年後には減少に転じる見込みです。一方、市や町による災害公営住宅の建設が進んだため、県は公営住宅全体の戸数が震災前の1.4倍に膨らんでいるとして余剰を強調します。

 公営住宅などの公的な賃貸住宅は、高度成長期の1960年前後から活発に建設されました。住宅不足は解消し、今は施設の老朽化と住民の高齢化が各地で課題になっています。

 ただ、公営住宅には、年金生活者や収入が高くない世帯への社会保障の役割があります。県は、住民に対し近隣の県営住宅への引っ越しを促しますが、そこもいずれは廃止の検討対象になります。
 引っ越し先の候補に市営住宅や民間住宅も挙げ、波紋を広げています。
 郡仙台市長「本市の市営住宅は非常に申し込みの倍率が高くて、現状で市営住宅に県営住宅にお住まいの方を受け入れるのは難しい」
 自民党・県民会議本木忠一県議「白紙に戻して、市町村ともじっくり話し合いを」
 共産党県議団福島かずえ県議「非常に強引でありこうした進め方に厳しく抗議したい」

 一部県議が5月下旬に開いた集会には、集約に不安を持つ住民ら40人ほどが参加しました。
 県営住宅で暮らす人「絶対、廃止は止めたいんですけども」「高齢の人は『どうしたら良いんだろう』『眠れないなあ』『最終的には老人ホームかなあ』とか、ちょっと悲しい」

集約の方針に不安を

 人口減少時代の公営住宅は、どうあるべきなのか。都市社会学が専門の東北大学名誉教授、吉原直樹さんです。
 東北大学名誉教授吉原直樹さん「人口減少時代に向かっているということは、公営住宅を集約する場合の一つの背後要因としては分かるんですよ」
 ただ、人口の減少とともに社会の分断や格差の拡大も進んでいるとして、こう訴えます。
 東北大名誉教授吉原直樹さん「いろんな層の人たちがアクセスできるような公営住宅が、これから必要なのではないか。地域によっては、人口とか商圏エリアによって一律に閉鎖ではなくてここは残っていくべきだということもあると思う」

 神戸市郊外の明舞団地は、入居が始まってから約60年。地域活動への参加などを条件に大学生を受け入れていて、高齢化した住民に学生が郷土料理を振る舞うなど交流の輪が広がっています。兵庫県の担当者は「団地のコミュニティーを学生が活性化させてくれている」と話します。

 泉区の県営黒松第二住宅に住む赤間さん。パステルと呼ばれるチョークのような画材を使って絵を描くのが趣味です。
 赤間直美さん「自分の好きな色をここから選んで。きれいでしょ。簡単なんですよ」

交流がある場所に

 パステルアートの教室を仙台市で開いていて、高齢者や大学生、障害のある人たちに教えています。さまざまな色が生きるパステルアートのような団地を思い描きます。
 赤間直美さん「若い人たちもお年を召された方も、障害のある方たちもみんな今までここで生活してきた。いろいろ手助け、協力しながら町内を運営していくっていうか。そういう交流のある場所になったら良いかな」

 宮城県が廃止方針を決めた6団地では、401世帯が暮らしています。県は7月から住民説明会を開き、引っ越しに伴う補償など移転支援の具体策を示し、住民の理解を得たい考えですが、先行きは不透明です。