防衛省は、情報漏洩(ろうえい)や手当の不正受給などがあったとして、自衛隊員を処分したと発表しました。その数は過去最大級の218人に上ります。各組織のトップも一斉処分を受ける極めて異例の事例です。

■海自トップ事実上の更迭

木原防衛大臣は給与1カ月分を自主返納するとしています。

木原稔防衛大臣 「国民の信頼を裏切る、決してあってはならないもの。防衛大臣として国民の皆様に深くおわび申し上げます」

処分された218人には、事務次官や統合幕僚長など防衛省、自衛隊のトップも含まれます。最も多くの処分者を出した海上自衛隊の酒井海上幕僚長は退職(19日付)。事実上の更迭です。

酒井良海上幕僚長 「深くおわびを申し上げます」

海上自衛隊が誇る艦船、その38隻で判明したのは、特定秘密の不適切な取り扱いです。適性検査を受けていない隊員が、指揮所などで他国の艦船の航跡や衛星写真などの機密に触れる任務をしていました。背景には人員不足があるといいます。

防衛省 「欠員があるため、戦闘指揮所でも本来、勤務していない隊員を入れるという現状がある」

酒井良海上幕僚長 「物理的勤務および勤務体系から、船での保全対策が取りづらかった」

■“潜水手当”で不正4300万円

潜水艦救難艦のダイバーは手当の不正受給を行っていました。任務や訓練で潜水をすると、その深さに応じて潜水手当が支給されます。隊員らは、実際には行っていない架空の訓練をでっちあげたり、訓練の時間や深さを水増しして不正に手当を受け取っていました。記録が残る期間だけで65人、約4300万円です。

訓練は、トップダイバーである潜水員長が計画して行われます。ところが、不正はその潜水員長や、手当の支給手続きの担当者も関わり慣習になっていました。

酒井良海上幕僚長 「担当者任せにし、その不正を見抜けなかった。これは組織としての体制の不具合であろうと思っております」

■相次ぐ不祥事「組織文化に問題」

一方、防衛省ではパワハラです。課長クラス以上の幹部職員が、部下にパワハラを行ったとして減給などの処分を受けました。

防衛省 「部下に『チンプンカンプンで理解不能』などのメールを送り、複数の職員が精神的苦痛を感じていた」

職員1人が精神疾患を発症して療養を余儀なくされたといいます。

また、自衛隊の基地では、幹部らによる“無銭飲食”も。基地内に住んでいる隊員は無料で食事が提供されますが、住んでいない幹部ら22人が代金を払わずに食べていました。

退職する酒井海上幕僚長は、組織が変わらなければ不祥事は繰り返されると話しました。

酒井良海上幕僚長 「極めて私の個人的な見解を申し上げるのであれば、組織文化というところに大きな問題があるのではないか。個々の事案の対応策では今後も対応できない。また似たようなものが生起しうる可能性は否定できない。長期的な対策を講じないと、組織文化というのは容易に変わらないというふうに私は考えている」

■海自トップ辞任「“なあなあ”の体制」

改めて218人の処分の内容を見ていきます。

【幹部の監督責任】を問われた、防衛事務次官や統合幕僚長などの最高幹部5人は訓戒。そして、海上自衛隊トップの海上幕僚長は引責辞任となりました。

処分が最も多かったのが【特定秘密の漏洩】で113人。懲戒処分で停職となった15人のうち、14人は海上自衛隊員でした。

【不正受給の事案】では、最も厳しい懲戒免職も出されています。救難艦の幹部を含む11人が免職、停職は48人に上ります。

【不正飲食】に関しては、19人が停職。いずれも海上自衛隊の隊員でした。

【パワハラ】では1人が停職、2人が減給となっています。

一連の不祥事のなかで、特定秘密の漏洩では、ほとんどが海上自衛隊の艦艇の中で発生していたことが明らかとなりました。防衛省は“人員不足”も一因としていますが、酒井海上幕僚長はこのようにも語っています。

酒井良海上幕僚長 「船の中では、特定秘密を取り扱う人間と、そうでない人間が同じ場所で混在していたのが実情だった。秘密を知り得る状態にするだけで“漏洩”にあたるが、その定義をしっかり認識させることができなかった」

そのうえで、不祥事が相次いだ原因については…。

酒井良海上幕僚長 「不正に気付いても、見て見ぬふりの“なあなあ”の体制が、一部にまだ残っているのではないか。不正は見逃さない、排除する、という厳しい体制を組織として構築する必要がある」