宮城県は、イスラム教徒などのための土葬できる墓地の整備を計画しています。イスラム教徒は歓迎する一方で、反対の声も寄せられています。

 石巻市にあるモスクには、この日もイスラム教徒の人たちが礼拝に訪れていました。建設業を営むバングラディッシュ出身のソヨド・アブドゥル・ファッタさん(54)は、震災後復興支援のために石巻市を訪れ、その後移住しました。石巻市で4人の子どもが生まれ、第2のふるさとの日本で生涯を終えたいと考えています。
 ソヨド・アブドゥル・ファッタさん「孫ができたらばあちゃんじいちゃんの家は石巻市になる。母国に住むことはない。あっちは何もない家も何もない」

 ソヨドさんは、亡くなった後のことで悩んでいます。イスラム教徒のお墓が無いことです。
 ソヨド・アブドゥル・ファッタさん「最後の眠る場所は外国人としては宗教に基づいて場所を用意して欲しい」
 ソヨドさんたちは、イスラム教徒が安心して生活できるよう土葬の墓地を整備してほしいと宮城県などに要望してきました。

土葬墓地を要望

 2024年に事態が動きます。村井宮城県知事が、土葬の墓地の設置を検討したいと表明しました。
 村井知事「多文化社会と言いながら、そういったところまで目が行き届いていないということは、私は行政としていかがかなとその時に強く感じましたので、批判があってもこれはやらなければならないと思っています」
 背景には、介護や水産業などの人手不足を解消しようと、宮城県がイスラム教徒が多い国からの働き手の受け入れを進めていることがあります。

 イスラム教の埋葬は、深さ2メートル以上の穴を掘った後に遺体を安置し、参列した人たちが土をかけ埋めていきます。イスラム教では宗教上の理由から火葬はしません。預言者ムハンマドが土葬であったことに従うことなどが教えとして確立しているからです。
 イスラム教徒の中には、火葬は考えられないと話す人もいます。
 インドネシア出身のイスラム教徒「(火葬は)火を使って骨だけ出るじゃないですか、怖いですね。人間は土からつくられる。亡くなった時もやっぱり土に戻る」

 現在の日本では、ほぼ全員が亡くなった後に火葬されています。土葬に反対の声は多く、村井知事の発言後には、県にメールなどで400件以上の批判が寄せられました。農作物などへの風評被害や環境への影響が心配などという理由が多いといいます。日本の法律で土葬は禁止されていませんが、イスラム教徒が土葬できる主な墓地は全国で10カ所程度で東北には1つもありません。

 仙台市でイスラム教徒向けの食品を販売するバングラデッシュ出身のマズンデル・モファザル・カリムさん(68)は、東北大学の留学生として来日して以来、宮城県で暮らしています。

 マズンデルさんは2023年に働いていたイスラム教徒のインド人男性が亡くなり、遺体をどうするか対応を迫られました。インドに遺体を送るには、約150万円もの費用が掛かりますが、家族は払えないと言います。

 困ったマズンデルさんは、土葬ができる最も近い埼玉県の霊園に引き受けてもらえましたが、遺体を運ぶために20万円を超える費用が掛かりました。
 留学生や家族らが費用を負担することは難しいため、宮城県の計画に期待しています。
 マズンデル・モファザル・カリムさん「バイトしながら勉強してるので亡くなったら大変。お金を誰が出す。宮城県に土葬墓地をつくれば相当ありがたい」

土葬墓地整備に期待

 土葬できる墓地をつくるためには、地域の理解を得ることが必要なため簡単ではありません。宮城県は国内にある土葬墓地の視察を始めてはいますが、現時点では何も決まっていないということです。
 村井知事「現在候補地を選定している状況。難しいことはお墓を作って良いか悪いかということは市町村にある。私どもがここが良いとなりましても市町村長が首を縦に振らないとできない」

 イスラム教文化に詳しい早稲田大学の店田廣文名誉教授は、互いの文化を理解することが大事だと指摘します。
 早稲田大学店田廣文名誉教授「これから人口はどんどん減っていく中で、日本社会としてある意味で移民を受け入れていかないと社会が立ち行かなくなっている。両者が相手を受け入れ合うという形で、社会の運営をやっていかなければいけない」