新型コロナウイルスの感染拡大で人の移動が制限される中、震災の伝承活動にも影響が出ています。そうした中、オンラインを活用した新たな伝承活動に注目が集まっています。
閖上の記憶・丹野祐子さん「私はここに、息子はこっちにいたはずです。水は海から、東から来ましたので、私はそのままこの2階に逃げ込むことができました。息子は中学校に向かって走ったっていう目撃情報があったっきり、残念ながらがれきの中で発見されました」
コロナ禍で伝承施設の来場者が減少
宮城県名取市閖上で当時13歳の息子を津波で亡くし、語り部活動を続けている丹野祐子さん(53)です。丹野さんたちが活動の拠点にしているのが伝承施設、閖上の記憶。2019年度までは年間1万人以上の来館者がありましたが、新型コロナの影響で、2020年度は4000人にまで落ち込みました。
閖上の記憶・丹野祐子さん「残念ながらたくさん本当は希望されていた方もキャンセルが続き、月に数組、極端な話だとゼロ」
コロナ禍で新たに始めたのがオンラインを使った語り部活動です。
閖上の記憶・丹野祐子さん「本当は直接、現地の風にあたってほしいですし、現地の温もり、現地のにおいを体感してほしいのが正直な気持ちですが、それがかなわぬ今、オンラインでつながれるということは悪い話だけではないと思います。誰でも好きな所に行けるという点では、コロナは私たちに良いきっかけを与えてくれたと思う」
VRでオンライン語り部ツアー
オンラインの活用は、コロナ禍における新たな伝承活動として大きな注目を集めています。南三陸町では、現在、2つの団体が仮想現実=VRを利用したオンライン語り部ツアーを実施しています。
南三陸町で、大学や企業の研修宿泊施設を運営している南三陸研修センターでは、2021年10月からオンライン研修の中でVRを使った語り部ツアーを始めました。
根津薫平記者「こちらが実際に研修で使われるVRの映像なんですが、このように画面を動かすと上が見えたり、下が見えたり、右へ行ったり、左が見えたり、実際に現場にいるかのような感覚で映像を見ることができます」
360度カメラで撮影した動画をスマートフォンなどで再生。専用の眼鏡を使ってこの動画を見ることで、遠く離れた南三陸町を語り部と共に実際に歩いているような感覚を味わえます。
これまでに約100人ほどがこのツアーに参加。3月は更に100人程度の予約が入っています。
南三陸研修センター浅野拓也さん「自分自身が見上げないと3階の鉄塔まで見えないんだとか、高さ、実際のその場にいるような感覚で津波の高さを実感できて、来たくても来ることが難しいという方々に今、現在の南三陸の町の様子を知る一つのツールになっているなと」
また、南三陸観光協会でも2021年7月からVR動画を使ったオンライン語り部ツアーを始めています。この日は兵庫県三田市からボランティア団体が参加しました。
語り部を勤めるのは震災当時、避難所で自治会を結成し、会長を務めた高橋長泰(68)さんです。
語り部高橋長泰さん「こちらで53人の方が避難をされまして、10名が助かりまして43名の方が行方不明、そして、犠牲になられた場所です」
高橋さんは、画面に表示される動画や写真に合わせて話しをしていきます。一通りツアーが終わると参加者との意見交換が始まりました。
オンラインツアー参加者「私たちのこの地域も少子高齢化が進んでいますが、そちらの方では、若い人の自発的なコミュニティーなどはございますでしょうか」
語り部高橋長泰さん「当たり前のように若い方が少ないので、私自身もどのようにしたら良いかなと戸惑っています」
オンラインツアーの参加者は、感染が落ち着いていた2021年12月は170人ほどでしたが、オミクロン株が広まった2022年1月は約750人、2月も440人ほどと感染の拡大に合わせて増加。県外や海外からの参加者も増えたといいます。
南三陸町観光協会佐藤快成さん「間口がすごく広がった部分が大きくあると思う。オンラインを通じて受講するというところでは、気持ち的にも少し楽な部分があるのかなと」
コロナ後も見据えて
語り部の高橋さんは、オンラインでの活動は町を訪れたいと思う人を増やしていく、コロナ収束後を見据えた活動だと考えています。
語り部高橋長泰さん「種をまくというんですか、そういう作業だと思いますので、落ち着いたら行ってみようかなと思われる方が一人でも増えれば良い。それの手助けができれば何よりだと思います」