宮城県南三陸町で、予約すると自宅近くまで迎えに来てくれる小さなバスが運行を始めました。目指すのは人工知能=AIを使ったスマートな交通です。
南三陸町入谷地区で1人暮らしをしている山内あい子さんです。この日は、町の中心部にあるスーパーへ買い物です。タブレット端末を使って、バスを40分後に予約しました。
料金は1回400円。他の利用者と乗り合いになり遠回りすることもありますが、自宅の近くまで迎えに来てくれます。時刻表は無く、普通のバスよりタクシーに近いイメージです。
従来型の町民バスは1日4便で、タイミングによっては何時間も待たなければなりませんでした。この予約型バスであれば、好きな時に出掛けられます。
山内あい子さん「行きたい時間に自由に行けますもの、このバス呼べばね」
南三陸町の公共交通はJR気仙沼線のBRTが幹を、町と地元企業が走らせている町民バスが枝を担っています。しかし、人口が減り高齢化が進む中、決まったルートを時刻表通りに走る町民バスは住民のニーズに応えられなくなってきました。
町が負担している費用は、年に約6000万円に上ります。公共交通を維持するにはどうしたら良いか検討した結果、7月から町民バス11路線のうちまず1路線を予約型バスに置き換えました。
南三陸町佐藤仁町長「(町民バスが)空気を運んでいるという実態があって、この状況を少しでも改善しないと駄目だなというのが我々としてデマンド(予約型バス)に移った大きな理由になっているんですね。財政的に(負担が)少なくなっていけばいいんですが」
南三陸町の予約型バスは、AIを使っています。予約用のタブレット端末をよく使う利用者に貸し出している他、スーパーや病院など約20カ所に配置しています。予約は個人のスマートフォンからもできるようにしています。予約を受けたAIは、目的地に直行するか他の利用者も乗せて乗合にするかなど効率的なルートを瞬時に判断し、バスに備え付けてある端末で運転手に伝えます。
複雑になりかねない配車をAIが担うことで、人件費や運行費を減らすことが狙いです。
こうした仕組みを支えているのは、トヨタ自動車の技術です。トヨタ自動車はIT企業が交通分野にも参入していることを意識し、車を製造するだけではなくモビリティーと呼ばれる移動サービスも提供する会社に脱皮しようとしています。
予約型バスの運行は長崎県五島列島で2年前から始めていて、その仕組みを子会社のトヨタ自動車東日本がある宮城県でも導入しました。
地域の交通事情に合った配車をすることはもちろん、行き先を選ぶボタンをどう並べたら利用しやすいかといった細かい点まで工夫を重ねています。
トヨタ自動車東日本林田愼太郎地域連携推進領域長「皆さんが移動の不自由を感じているとすれば、我々が持っているノウハウでお役に立てればいいなと思っています」
利用者の予約に応じて走るデマンド交通は、宮城県でも各地に広がりつつあります。名取市は10月から、利府町は11月からの導入を予定しています。地域交通に詳しい宮城大学の徳永幸之教授は、背景を指摘します。
宮城大学徳永幸之教授「(公共交通維持に掛かる)自治体の負担が大きくなってきている中で、できるだけ効率化しようと。高齢化の中でバス停まで歩いて行くのが大変だということで、そういう人たちにも対応しようと」
ただし、カバーする面積や利用者のニーズによっては向かない地域もあると言います。栗原市は予約型を走らせてきましたが、2024年度からはタクシー料金の助成に切り替えます。市の面積が宮城県で一番広く、乗合だと遠回りになることもあり市民から目的地に直接行きたいという声が出ているためです。
宮城大学の徳永幸之教授「自分たちにとってどういうシステムなら使い勝手が良くて負担も一定程度に抑えられる、といったところを地域で考えていかないといけない」
南三陸町の山内さんはスーパーで買い物を済ませ、店内にあるタブレット端末で帰りのバスを予約します。南三陸町は、予約型バスを11月から歌津地区など6つのエリアに広げることにしています。山内さんは親類の住む歌津地区に行く際にも利用してみようと考えています。
山内あい子さん「時刻表はやっぱり今までは気にしていましたよ。(予約型なら)自由に決められるので助かります」
山本精作記者「予約型バスは料金も安く利用者にとって便利ですが、地域によっては合わない所もあります。予約型を含めた多くの地域交通は、自治体の持ち出しや企業の貢献によって支えられています。地域の公共交通を維持していくために、使い勝手と負担の折り合いをどうつけるのか。行政側に任せきりにするのではなく、自分たちの問題として考えていく必要があると思います」