円安などの要因で電気代が高騰する中、ある画期的なシステムで、電気代を安くしている地域があります。一体どういうことなのか、取材しました。(7月13日「サタデーステーション」)

■導入費用はタダ

沖縄本島と台湾のほぼ中間に位置する宮古島。宮古ブルーに包まれる、この南海の楽園で画期的な取り組みが始まっています。

報告・山口豊アナウンサー 「沖縄県宮古島市です。住宅にはこちらのような蓄電池と、多くの建物の屋根に太陽光パネルが取り付けられています。この取り組みは900世帯以上に広がり、電気代の安さと災害への備えを実現しています」。

太陽光パネルと蓄電池を導入した住民 「こんなにもお得になるというのは正直期待もしていなかったし、だから余計にうれしい」

3年前、蓄電池と太陽光パネルを設置した上地さん。家で使う電気の9割ほどを太陽光で賄っています。

太陽光パネルと蓄電池を導入した住民 「(Q.導入にかかった費用は?)タダです。正直びっくりした」

住民は、太陽光パネルや蓄電池を設置する場所を貸すだけで、購入する必要はありません。メンテナンス料もかかりません。さらに電気代が3000円ほど安くなったといいます。

■エリア全体を「巨大な発電所」に

なぜ、こんなに安くできるのでしょうか?

たくさんの蓄電池を束ねることで可能になったのです。仕組みを作ったのは「宮古島未来エネルギー」の比嘉さんです。

宮古島未来エネルギー 比嘉直人社長 「住宅にある太陽光と蓄電池900台以上ですね。それが無線通信でつながっている状態になっていまして、一体型で、束ねて動かすということですね。巨大な発電所のように」

一つの家庭で完結するのではなく、全ての契約世帯の太陽光パネルと蓄電池をまとめて遠隔で管理し、巨大な発電所のように動かせるようにしたのです。「バーチャルパワープラント」という手法です。

電気は、需要と供給を常に一致させる必要がありますが、太陽光発電は天候に左右され発電量が安定しないという弱点があります。そのため、余った電気の一部を捨てるなどされてきましたが、蓄電池を使えば、需要が増える夜などに利用できます。このシステムのすごい所はこうした蓄電池を一括管理することで、全世帯の充電や放電のタイミングを的確に行い、発電した電気を無駄なく使えるようにしたことです。

宮古島未来エネルギー 比嘉直人社長 「発電電力量が無駄に失われずに済んだので、それを我々は「余剰電力」として販売もしますので、(売電)収益源になります。このバーチャルパワープラントによって無駄をなくして最適化が図れますので、その恩恵を(電気代の)安さにつなげることができています」

既存の家の屋根上などを利用することで、新たな用地買収などのコストも省けるといいます。

■停電時にも威力を発揮

さらに今年4月、このシステムは、災害などで起こる停電にも強いことが証明されました。宮古島の離島、人口150人ほどの来間島。台風などによって年に何度も停電が発生し、復旧まで数日かかることもあります。宮古島市では4月、火力発電所の送電施設の不具合で市の全域が停電する事態となりました。しかし、来間島だけは蓄電池のない世帯も含め、全世帯が長時間の停電を免れたのです。一体、何が起きたのでしょうか?

来間島では、半数ほどの世帯がバーチャルパワープラントを導入しています。このネットワークに、巨大な蓄電池を組み合わせるなどして、太陽光パネルも蓄電池もない世帯にも、電力を供給できるようにしたのです。この取り組みは「地域マイクログリッドシステム」と呼ばれています。

沖縄電力カーボンニュートラル推進本部 塩浜智洋係長 「このマイクログリッド蓄電池で来間島のお客さん全体に電気を送ることに成功しまして、一般世帯の停電を解消することができました。日本国内では初めての事例だと考えています」

太陽光パネルも蓄電池も設置していない住民は。

来間島の住民 「今回みたいに停電があれよあれよと、分からないうちに電気が使えているということはみんなすごいびっくりしているんですよ。それ(太陽光パネルや蓄電池の設置)をやらなかった私たちまで恩恵があるというのがもっとすごいという感じ」

宮古島の火力発電頼りだった来間島の電気は、大きく変わり始めています。

宮古島未来エネルギー 比嘉直人社長 「年間の来間島のコミュニティエリアで使われる電力消費量のうち約55%は再エネで賄える。(未設置の)残り半分の住宅の屋根の上に太陽光と蓄電池を設置すれば100%により近くなると思っています」

来間島では6年後に「電力の100%地産地消」を目指しています。

■他の地域に広がる可能性は?

高島彩キャスター 「大変画期的な取り組みだなと思いますが、宮古島では上手くいってるようですけれども、ほかの地域で実現する可能性はどうでしょうか?」

山口豊アナウンサー 「実はあるんですよ。関東、関西、四国から比嘉さんのところにも問い合わせが来ていて、プロジェクトが動き始めているんです。実は比嘉さんによりますと、東京でもこのバーチャルパワープラントのシステムを使って、電気を無駄なく使って安くすることは可能だということです。ただ、このシステムのカギを握るのは、蓄電池なんですよね。そして、蓄電池に関してはある動きがあるんです。蓄電池の国産化を目指しているパワーエックスという会社の岡山の工場なんですが、来年から本格稼働し、ここでは最大80万世帯が一日に使う電気をためられる蓄電池を量産していくという動きが本格的に始まっているんですね」

高島彩キャスター 「蓄電池の耐久性みたいなものは?」

山口豊アナウンサー 「蓄電池は非常に高性能化していまして、コストはこの10年で5分の1になったといわれています。それから最近は、リン酸鉄リチウムイオン電池が普及してきて、これで耐久性が倍、10年から20年ぐらいはもつようになったといわれているんですね」

高島彩キャスター 「コストパフォーマンスが良くなっている。ただ都市部ですとかマンションに住まわれてる方、この蓄電池や太陽光パネルを置くのが難しいという方も多いと思いますけれども」

山口豊アナウンサー 「そうですね。蓄電池は電気をためて時間を移動することもできるんですけど、一方で場所も移動することができる。それがこちらの電気を運ぶ船、電気運搬船なんですが、パワーエックス社が開発をしていて、全長147メートル、蓄電するモジュールというんですが、それが1万4400個積むことができて、2万4000世帯分の電気をこの船で運ぶことができるんです。この電気運搬船のメリットを伊藤社長にお聞きしました」

(パワーエックス 伊藤正裕社長) 「電力を海上で輸送することができると、実はいろんな可能性が出てきます。例えば九州で余った昼間の再エネを本州に持ってきたりもできますし、洋上風力で沖合に風車を建てた時に、その電力を海底ケーブルを使わずに船が取りに行くということもできます」

山口豊アナウンサー 「この電気運搬船は、2年後の2026年には完成予定で、まずは九州~本州、北海道~青森などの短距離を結ぶ計画です。それとは別にちょっと驚きの情報がありまして、これは、海に浮かべる浮体式洋上風力のポテンシャルを表した地図なんですが、このピンクの部分、実はこれ東京都の伊豆諸島です。ここが洋上風力のポテンシャルが非常に高くて、浮体式で原発12基分の電力を生むポテンシャルがあるんです」

高島彩キャスター 「ポテンシャルがあるということは、風がよく吹くということですか?」

山口豊アナウンサー 「風が強いですから、可能性があるということですね。ここに例えば洋上風力を置いて電気運搬船で運んで、そして今後、廃炉になっていく火力発電所のインフラなどを有効利用して、首都圏に大容量の電気を送ることも可能だといわれています。実際に横浜港に関しましては、横浜市などと「連携協定」を結んでいて、将来に備えているということです」

ジャーナリスト柳澤秀夫氏 「良いことばかりなんですけど課題は何ですか?」

山口豊アナウンサー 「私が思う課題は、日本全体がエネルギー自給率を高めようという機運を高められるかどうか。いま日本の自給率は13%しかないんですね。手元足元にある再エネ資源、これを生かして、作って・蓄めて・使う、それによって災害にも強い、自分たちのエネルギーで有事にも強い、そういう社会を作れるかどうかだと思います」

高島彩キャスター 「電気の自給率を上げていくのがマストな時代に入ってきたなと思いますけれど、皆で向かっていくことが大切かもしれないですね」

山口豊アナウンサー 「そこに向かっていけば、電気代は安くなる、最終的にはお得になるということにもなる」