東日本大震災をテーマに仙台市で撮影された映画「最後の乗客」は、短編映画としては異例の日本アカデミー賞の選考対象作品に選ばれています。挿入歌を担当したのは、宮城県石巻市出身のシンガーソングライターです。
仙台市在住のシンガーソングライター遠藤裕弥さん(46)は、石巻市北上町の十三浜出身です。
遠藤裕弥さん「ここに橋があったんですよ。こっちにも隣の家があって、そこが田んぼで、よく遊んでたんですよここも」
ふるさとを襲った津波で、十三浜は全ての集落が被害を受けました。祖母が犠牲になり、建て替えたばかりの遠藤さんの実家も流されました。
遠藤裕弥さん「で、ここからが家だった。自分が育ったころは外風呂があって、隣にトイレで。ここに家があって」
高校卒業と同時に地元を離れ、アメリカを拠点に音楽活動に励んでいた遠藤さんは震災当日、石巻に津波が来ると聞き家族に連絡を試みますがつながらず数日、眠れぬ夜を過ごしました。
遠藤裕弥さん「SNSに、十三浜地区の状況をご存じの方お知らせ願いますと何度も何度も投稿して、避難所でお母さんに会いましたよ。家族は無事との伝言ですとメールをいただいて、それが5日目の朝でしたね」
余震などもあり、ふるさとに帰って来られたのは、震災から半年後でした。
遠藤裕弥さん「記憶の中の風景と現実に見ている風景の重なってる部分と、変わってしまってる部分に対する入り混じった感情というんですかね。怒りじゃないですけど、自然へのかなわないなっていう畏敬の念というんですかね」
遠藤さんは2021年、震災をテーマとした映画「最後の乗客」の挿入歌の依頼を受けました。
「最後の乗客」は、震災から10年が経った東北のとある海沿いの街を舞台として、タクシー運転手とその娘を軸に過去との決別と未来に導く光を描いた短編作品です。若林区荒浜など仙台市の被災地で撮影されました。
遠藤さんの曲は、物語が展開するタクシーの車内ラジオから流れてきます。曲作りのきっかけは、ある報道を目にしたことでした。
【震災関連自殺者計55人(2011年)】
遠藤裕弥さん「自ら命を絶つ選択をしていった方たちが大勢いらっしゃって、自分にはどうか生きてくださいって祈ることしかできない。それが曲になった」
生きる希望を持ってほしいと生まれたのが「セーブ・ユア・ソウル」です。気持ちをストレートに表現しました。
遠藤裕弥さん「元気が出る励まされるようなエネルギーを込めたかったので、聞いてもらえる機会が増えてくれるとうれしいですけどね」
挿入歌の制作を依頼した映画監督の堀江貴さんです。
堀江貴監督「遠藤さんの魂の叫びみたいな響いてくるものがあったので、是非この映画の中で使わせていただいて、少しでもこの曲をみんなに知ってもらえたらうれしいなっていう気持ちもあって使わせてもらいました」
「最期の乗客」は、世界各国の映画賞の受賞を機に国内でも公開が広がりロングヒットになりました。55分という短編映画としては異例の日本アカデミー賞選考対象作品にも選ばれています。
堀江貴監督「こんな大きな舞台までたどり着けるなんて思ってなかったので、こういう日(全国公開)を迎えられて本当に胸がいっぱいです。ありがとうございます」
鑑賞した人「何回か見て見る度に、自分の目線が色々な所に行くんですね。改めて何かぐっと来ましたね」「父と娘とかおじいさんと家族との思いが、ものすごく胸にくるという感じで良かった」
遠藤裕弥さん「生きたくても生きられなかった命がたくさんあって、何が一番供養になるんだろうって考えた時に、毎日を当たり前に大切に生きるっていうことなのかなって」