幼くして老化が進む難病を抱える男の子が、この春高校生になりました。失われたもの、そして、失われないもの。懸命に生きる男の子と家族の姿です。

 4月8日。花見をするために、公園を訪れた男の子。仙台市に住む高校1年生の須知誉さん(15)です。
 満開の桜は、誉さんにはほぼ見えていません。しかし、家族はみんなで出掛けた思い出は記憶に残ると信じています。
 母親富美さん「このまま1年が過ぎてくれればいいと思いたいんですけど」

家族と花見に

 誉さんは、生まれつき難病を抱えています。幼くして老化が進むコケイン症候群です。
 誉さんと出会ったのは、2014年。小学校入学を迎えた頃でした。体重は9.1キロ。6歳にして、1歳半の男の子の平均体重にも満たない小さな体でした。まだ、視力はあり、カメラに興味津々。

 「ハッピーバースデー」
 大好きな曲は、「ハッピーバースデー」。
 誉さんが、生まれたのは、2007年6月。
 「みんなに誉められるような人に育ってほしい」。両親はそんな願いを込め、誉と名付けました。

 コケイン症候群と分かったのは、4歳の時。
 母親富美さん「(医師の)話は聞いているんですけど、いろんな想像、終わりの想像ばかりして涙しか出ない位にあの時は衝撃をうけて」
 コケイン症候群は、4倍から5倍の速さで老化が進むと言われる希少難病。知的障害や歩行障害、視力障害などの症状が現れます。
 発症は50万人に1人で、国内の患者は約50人。治療法は見つかっておらず、平均寿命は15歳から20歳とされています。
 母親富美さん「いろんなことを失っていくと思うけど、若い頃と言うか目が見えていた時とかそういう時の思い出って言うのは、必ずいろんなことを失った時の力になるからっていうことも言われて」

誕生日には年齢を壁に

 2017年6月。10歳になった誉さん。母親の富美さんは、誉さんの年齢を壁に貼るようになりました。
 10歳を過ぎると急速に老化が進むと言われるコケイン症候群。無事に誕生日を迎えられる。それは、家族にとって特別な意味があります。
 母親富美さん「11って貼った時に、貼りながら思ったことが20歳まで生きるかもって、ちょっと初めて思ったかもしれないですね。体力が弱い子は10代半ばとか聞いた時は、誉も体が小さいから20なんて多くを望んでなかったけど、今の感じだともしかしたら20歳越えられるかなって思いで、1って貼りました。それだけ思った」
 しかし、この頃から少しずつ視力が落ち、自力で立つことも難しくなってきました。記憶もおぼろげに。

 2020年3月。誉さんは小学校を卒業。家族みんなでケーキを買いに行き、お祝いです。誉さんにとっては、大好きな誕生日と同じ。
 「にぃに、卒業おめでとう」「フーして!」「聞いた?ハッピーバースデー歌ってるよね」
 誉さんは、家族が毎年お祝いしてくれた誕生日のことをしっかりと覚えていました。
 誕生日をこれからも毎年、迎えることができたら。

 2022年2月。誉さんに厳しい現実が突き付けられました。腎機能の数値が悪化。医師から余命1年と宣告されたのです。
 母親富美さん「気持ちが消化しきれなくて、日々見ていて食事とかなんか(長く)寝るなとか、そういうのでは感じていたけど、いざそうなってみるとまだこんなにニコニコしてるよって、こんなに遊んでるよとかいう思いはあります」

家族と共に懸命に生きる

 その1年は過ぎましたが、予断を許さない状況が続いています。懸命に生きる誉さん。そして、支える家族。
 誉さんの誕生日は、6月15日。今の願いはみんなで「ハッピーバースデー」を歌うことです。
 母親富美さん「楽しく過ごそうねって。(家族)一緒にねって」