仙台市青葉区国分町で半世紀にわたり営業を続ける喫茶店はかつて、ミニコミ誌を愛する若者が集まった父親の店です。息子へと時代を経た、人と人とをつなぐユニークな試みです。

 定禅寺通にある喫茶店、珈巣多夢(かすたむ)の創業は1976年、4月15日で50年目に入りました。
 伊藤強さん「落書き帳いっぱいあったんですよ。もう山ほどあってね」

 半世紀にわたり、人のつながりに支えられてきました。落書き帳からSNSへ形を変えながら、客との交流が続いています。
 伊藤暢康さん「何が面白がられるのかも良く分からないので、やれることはちょっとやってみようかなぐらいな本当軽い気持ちでやってみましたね」
 昭和から令和へ。懐かしさと新しさ。老舗喫茶店の不思議な魅力に迫ります。

創業50年目

 創業50年目を迎えた喫茶店、珈巣多夢のレトロな店内は年季が入った漫画から最近流行りのキャラクターまで、何とも独特な雰囲気です。
 名物は、自家焙煎でまろやか味わいが特徴のコーヒーと耳までふわふわに焼き上げた厚切りトーストです。秘密基地のような店内と、こだわりが詰まったシンプルなメニューが魅力の店です。

 店を切り盛りする伊藤暢康さん(45)は、2009年に初代マスターの父親から店を引き継ぎました。自身が生まれる前からある店は、暢康さんにとって幼い頃からの思い出が詰まった大切な場所だと話します。
 伊藤暢康さん「よく母親に連れて来てもらった記憶があったかなって。落ち着く場所でもあるけど毎日変化もあって、その時々で色々な感じ方がありますかね」

 店がオープンした1970年代は、携帯電話やインターネットが無い時代です。暢康さんの父親で、開店から30年以上にわたりマスターを務めた伊藤強さん(76)です。
 伊藤強さん「落書き帳いっぱいあったんですよ。もう山ほどあってね」

落書き帳で交流

 強さんがマスターを始めた当時、交流の手段として使われたのは落書き帳でした。客の何気ないつぶやきから、プロ級のイラストまでが書き込んであります。落書き帳は話題となり噂が噂を呼んで、いつしか店には漫画やミニコミ誌を愛する若者が集うようになりました。
 伊藤強さん「トキワ荘っていうんですか、マンガクラブの連中が。落書き帳を置いたものですから、私もこんな調子でしゃべってるもんだからみんな遊びに来てね」

 昔の事を尋ねると、まるで昨日の事のように楽しく話す強さん。客と一緒にハイキングや海水浴に出掛けることも、しょっちゅうあったそうです。
 伊藤強さん「家内と2人でやってたから、子どもを連れて店行ってたのね。お客さんが宮城県庁とか西公園に連れて行って、お客さんに散歩してもらった。遊んでもらってたんですよ」

 思い出の写真には、暢康さんの姿もあります。暢康さんは大学卒業後、飲食業界に就職しましたが26歳の時に珈巣多夢を継ぐ決意をします。焙煎から提供まで、全て自分で手掛けられることに魅力を感じました。そして父親強さんの存在もありました。
 伊藤暢康さん「いずれやるんだろうなあ、やりたいなあみたいなことは、ずっと昔からそれこそ幼稚園小学校くらいからあって。何か楽しそうにしてる人だなみたいなことは、子ども心にずっと思ってて」
 伊藤強さん「『俺、珈琲屋継ぐ、やってみたいんだけど』って。ああそうかって。ただ、恨まれるようなことはしないでくれって言ってるんで」

 店は人のつながりに支えられ続いてきましたが、生命線である人のつながりが途絶える危機がありました。コロナ禍です。珈巣多夢も、営業自粛を余儀なくされました。
 伊藤暢康さん「1日に10人とかも来ないですね。5、6人とか。本当にこれからどうなるんだろうみたいな感じでしたけどね」

 コロナ禍に力を入れたのが、SNSでした。暢康さんは、自身のありのままを発信すればより身近で面白そうだと考えました。ダンスが得意な長女と一緒に踊った動画などを投稿しました。普段の姿とは打って変わった、かわいらしい一面が垣間見えます。

人と人とのつながり

 店が休みのこの日は、インスタライブで花見の様子をお届けしました。SNSで参加を呼び掛け暢康さんの家族やアルバイトスタッフ、常連客も集まりました。配信を見た人からは、「また店に伺いたいです」というコメントが寄せられました。父親強さんがかつてつくり上げた交流の光景がよみがえります。強さんは今の暢康さんについて、話します。
 伊藤強さん「まわりまわってつながっていますね。向こうは向こうなりの客層や、独特のグループが集まった状態で騒いでいる。それはそれでいいのかなと思うしね。何か似てるところがあってねえ、ちょっと髭伸ばしやがってねえ」

 4月15日に珈巣多夢は創業から50年目に踏み出しました。店には仕事休みの常連や、カフェ巡りが趣味という学生まで様々な人が訪れました。昭和レトロブームも相まって、コロナ禍以降客層にも変化が出てきています。
 来店客「インスタですね。落ち着いた雰囲気で自分だけの時間を過ごせるところが良くて、そういう所が好きで巡ってますね」「毎回(SNSの)投稿も楽しみにして。お店の方の人柄も見えて、とても面白いなと思っております」

 落書き帳からSNSへにつながりの形を変えながら、珈巣多夢は次の半世紀へと歩み始めます。
 伊藤強さん「おかげ様で50年、ここまで来られたのはやっぱり人とのつながりかなと」
 伊藤暢康さん「止まり木みたいなちょっと一息ついてまた次の場所へみたいな。風景の一部じゃないですけど、ずっとあり続けたい感じではありますね」