東日本大震災から14年。当時、津波で母親と妹を亡くした1歳の男の子が今月、中学校を卒業します。父が再婚し、妹もできた親子の14年です。

■紡ぎ続ける絆 被災家族の14年

兄 「滑り台で滑ろう」

 公園で仲良く遊ぶ、きょうだい。

兄 「陽心おいで、滑ってきて」

 妹の陽心ちゃん(3)と、兄の悠陽さん(15)です。

 2人の年の差は12歳。東日本大震災の後、大切に築き上げてきた家族の絆がありました。

 家族が暮らすのは岩手県陸前高田市。震災から14年。悠陽さんは今月、中学校を卒業し、来月、高校に進学します。

 父・潤一さん(40)と向かったのは、津波で亡くなった母・有花さん、そして、生まれてくるはずだった妹が眠るお墓です。

小鎚悠陽さん(15) 「無事、受験が終わったことと、これから何をしたいか、やりたいことを見守っていてほしいと(伝えた)。記憶がなくて写真でしか見たことがないので。覚えていなくても母親だから感謝の気持ちを込めている」

 母親を失ったのは悠陽さんが1歳の時でした。

小鎚潤一さん(当時26) 「悔しいですね、本当に。ただ、もう言葉もないし、天災なので」 

 母のおなかには、2カ月後に生まれるはずだった悠陽さんの妹がいました。

 父・潤一さんとの生活で、すくすくと育った悠陽さん。ただ、小学生の頃から、母親がいない寂しさを感じ始めます。

悠陽さん 「(Q.寂しいと思う時は?)家に自分以外の人がいないとか、自分の部屋に1人でいたりとか」

 きょうだいもいない悠陽さんに大きな転機が。

悠陽さん(当時12) 「立った立った」

 かわいい妹・陽心ちゃんが誕生したのです。

潤一さん(当時37) 「“あたたかい心”で『陽心』なので、悠陽と同じように優しい子に育ってほしい」

 父が同い年の希望さんと再婚したことで新しいお母さんと妹ができました。

悠陽さん(当時12) 「少し驚いているとか分からなくなったとか、(妹に)どう接すれば良いのかとか」

 当時はうれしい半面、戸惑いも感じていました。あれから3年…。

悠陽さん(15) 「陽心、ヘタだけ取って食べて」

 中学3年生になった悠陽さんは、すっかりお兄さんに。

悠陽さん(15) 「まだ、ちゃんと会話ができるほどしゃべっているわけではないけど、一緒に遊んだりするのでそういう時は来てくれるとうれしい」

 陽心ちゃんは3歳で、やんちゃ盛り。お兄ちゃんのギターがお気に入りのようです。

 近所の公園にあるシーソー。兄・悠陽さんも幼いころ、父と遊んでいました。同じ年頃になった妹に、今度は兄が数え方を教えます。

兄 「1、2は?陽心」 妹 「にいに、にいに」

 「妹」と「母」。新しい家族との生活。思春期に差し掛かった悠陽さんは一日一日、大切に絆を深めています。

悠陽さん(15) 「物心ついた時には最初のお母さん、本当のお母さんはいなかったので、今の方がちゃんと『お母さん』という感じはしますけど、ちゃんと『お母さん』って呼んだりするのは恥ずかしいなと思う場面はあったりします」

 息子の成長を一番近くで見守ってきた父・潤一さんは…。

潤一さん(40) 「成長はしているのだと思います。15歳らしいというか。皆に感謝ですよね」

 亡くなった家族のことも忘れたことはありません。

悠陽さん(15) 「大人になってもしっかり感謝の気持ちを忘れないように、これからもお墓参りに行きたい」