世界1位と2位の経済大国同士による、“貿易戦争”。米中それぞれの国で物価上昇が懸念される中、トランプ支持者からも不安の声が。アメリカ国民の本音を取材しました。(4月12日「サタデーステーション」OA)

■米中“報復関税”100%超の異常事態

雨のなか、カメラに向かってポーズを取りながら専用機に向かうトランプ大統領。“トランプ関税”で世界中を混乱に巻き込んでいる張本人は、就任式後初めての健康診断でした。

アメリカ・トランプ大統領(11日) 「すべての検査において良好だ。認知機能もテストして全問正解だった」

9日、日本を含む約60の国や地域を対象に、追加発動された『相互関税』。トランプ政権は半日ほどで90日間の停止を発表しましたが、中国だけは除外される形となりました。その中国の習近平国家主席は、トランプ政権を念頭にこう強調。

中国・習近平国家主席(11日) 「関税戦争には勝者がいない。世界と対立し自国が孤立することになる」

『相互関税』の影響を受ける国との関係強化の狙いがあるとみられます。一方のトランプ大統領は。

アメリカ・トランプ大統領(11日) 「習近平国家主席とはいつも仲良くやってきた。非常に良い関係だ。中国との間でなにかしら良い結果が得られるだろう」

ここ数日、“報復合戦”という形で米中の関税は何度も上昇していきました。お互いが『報復関税』を繰り返す状態となり、最終的にはアメリカが中国側に145%、中国がアメリカ側に125%の関税を課すことになりました。中国側は、今後アメリカが関税を引き上げても、関税戦争には応じないとしています。

■iPhone33万円試算も アメリカ国民の本音は?

報告・鈴木彩加記者(米ニューヨーク 11日) 「トランプ大統領の関税政策を受けて、ニューヨークにあるチャイナタウンにも動揺が広がっています」

中国からの輸入食材をメインに扱う食品スーパー。見渡すと日本でも目にする中華食材が豊富に並んでいます。果たして影響は…。

報告・鈴木彩加記者(米ニューヨーク 11日) 「こちらの干しシイタケ、このサイズ感で現在1290円のところ、145%の関税が店頭価格に反映されると、3160円、高級品となります。」 「調味料がずらりと並んでいるんですが、こちらの豆板醤、現在の小売価格は、日本円で658円なんですが、145%の関税を単純に上乗せすると1000円近く値上がりすることになります」(日本時間 12日午前0時時点 1$=143.5円で計算)

店内にある商品の80%が中国からの輸入品のため店側の影響は必至ですが、オーナーは関税分をどこまで値上げすべきか戸惑いを見せます。

店のオーナー ジャスミン・バイさん 「来週の事がとても心配です。来週の輸入分は、関税を上乗せして売らないといけない。店が潰れてしまう」

さらに、影響を受けそうな商品が…。

報告・鈴木彩加記者(米ニューヨーク 11日) 「大きな影響を受けそうなのが、iPhoneです。駆け込み需要からか、マンハッタンにあるアップルストアには平日にも関わらず続々と人が入っていきます」

実は、世界に流通するiPhoneの80%が、中国で生産されていると推測され、大幅な値上がりが予想されています。

購入客 「1台は自分用、もう1台は兄弟のために2台買いました。関税発動前の値段で買いたかったんです」 購入客 「ここ数カ月で確実に高くなるから、今のうちに買い換えようと思いました。みんな買いにきてたよ」

最上位機種のアップルストアでの価格は、1199ドル(約17万2000円)ですが、ある試算によれば、関税を適用すると2300ドル、日本円で約33万円になるとしています。(Wedbush証券 ダン・アイブス取締役の試算)(日本円は日本時間 12日午前0時時点 1$=143.5円で計算)

報復合戦が続く中、ニューヨーク市民にも動揺は広がっています。

ニューヨーク市民 「関税が高くなるなんて思っていなかったから、準備なんかしていない。外食を控えて、自炊しています」

■支持離れも懸念?トランプ支持者の本音「中間選挙に影響する」

予測不能なトランプ大統領の動きに、支持者たちの気持ちも揺れています。大統領選の際にトランプ陣営からスピーチを任された、ベネズエラからの移民ダニエルさん。

トランプ支持・ダニエルさん(去年10月) 「彼が当選して政策が実行されればインフレは収まるでしょう」

番組が取材したときには、トランプ氏の掲げる経済政策に期待していました。いまのアメリカの状況を、慎重に見守っているといいます。

トランプ支持・ダニエルさん(11日) 「今後数週間で何が起きるか、見てみないとわかりません」

しかし、激しい報復合戦を重ねるトランプ大統領について、こんな本音を漏らします。

トランプ支持・ダニエルさん(11日) 「(トランプ大統領が)交渉のカードとしてやっているのか、世界に関税の引き下げをさせるためなのか、それとも関税をこのまま維持するつもりなのか注視しなければならない。来年の中間選挙にも影響するでしょう」

■専門家解説 世界経済は混乱?最悪のケースは

米中の報復合戦は何をもたらすのでしょうか。経済と外交の視点から専門家に話を聞きました。トランプ政権の経済政策に詳しい前田氏はこう分析します。

第一生命経済研究所・前田和馬主任エコノミスト 「関税をお互いに上げ続けているというところで、もはや経済合理性ではあまり語れない次元になっている。関税政策が続くのであればもう自由貿易は大きな転換点に入らざるを得ない。世界経済は大混乱に陥る、貿易は大きく停滞しますし、効率的に経済合理性でモノをつくる場所を選ぼうという話はかなり弱まると」

ただ、現状の関税率はそこまで続かないと指摘します。

第一生命経済研究所・前田和馬主任エコノミスト 「(アメリカ側は)貿易が大きな混乱を強いられるし、やり取りが成り立たない、経済が回らないという話になると元の姿勢に戻るのは期待しづらいが、多少の修正を入れてより現実的な落としどころを目指す考え方はある。中国経済は不動産不況の問題があったり、構造的にも懸念点が多い。そうした中で米中の対立・輸出の減少は大きく効く可能性がある。経済的ダメージと国内向けの(中国首脳の)見せ方やプライド・バランスをどうとっていくのか」

一方、日本の安全保障政策に携わってきた兼原氏はこう指摘します。

元内閣官房副長官補 笹川平和財団 兼原信克常務理事 「(落としどころは)ちょっと今見えない。交渉っていうのは、カードをばっと持っていて『強いカードがあるよ』と見せて、お互いどこでオチを探すかってやっていくので。こんなケンカし続けておいて『お互い損ばっかりだよね』ってお互い思うはずなので(アメリカが)『なんか(交渉カードを)出しなさいよ』と言って(中国が)出してきたら『ディール(交渉)だね』となる」

しかし中国側にとっては良い面もあるといいます。

元内閣官房副長官補 笹川平和財団 兼原信克常務理事 「政治的には中国すごく喜んでいて、ヨーロッパなんかは中国に向き始めている。(バイデン政権時と)全く逆向きになってきているんです。西側が結束すると中国の2倍以上の大きさになっちゃうから、これをトランプ大統領が今、自分で壊してくれている。これは中国にとってウハウハ、いただきましたみたいな感じになったと思う」