さまざまな理由で十分な学びができなかった人たちの学び直しの場所です。「もう一度、学びたい」その声に応えて活動する仙台市の自主夜間中学です。
JR仙台駅近くにある仙台市生涯学習支援センター。その一室で、市民団体が運営する仙台自主夜間中学の授業が行われています。
スタッフ「掌って、読めた方いますか?掌は読めた、すごい」
2014年11月に開講した仙台自主夜間中学。昼と夜の2部制で、元教員ら40人ほどのスタッフがボランティアで読み書きや計算、小中学校の教科の基礎的な内容を教えています。
授業料は無料で、10代から90代の約50人が学んでいます。
生徒の一人で、富谷市に住む西村むち子さん、72歳です。
西村むち子さん「(算数の授業)あの私、0.1とか、右に移動するとか、あれが一応やったんですけど、やっぱり納得はしてないです」
スタッフ「じゃ、小数の掛け算というのがあるので、そこちょっとやってみます?」
西村さんは青森県出身。地元の小中学校を卒業し、雑貨店で働きながら定時制高校にも通いました。しかし。
西村むち子さん「昔は分からないまま、先生の指示によって『はい、次のページ、次のページ」、頭にはほとんど残ってないです。全部、苦手になりましたね。英語とか算数とかちょっともう、ついていけないくらい落ち込みました」
23歳で結婚した西村さん。その後、夫の転勤に伴い宮城県へ。「いつか勉強し直したい」という思いはありましたが、家事や2人の子どもの子育てなどに追われ、なかなかかないませんでした。
西村さんが仙台自主夜間中学の門をたたいたのは6月。外出先でたまたま見つけたパンフレットがきっかけでした。
西村むち子さん「字が書けない。小学校1年生の字も頭では覚えているんですけれど、実際にペンを執ってみると書けない。ちょっとそういうので算数もほとんど忘れちゃって、割り算とか引き算とかなんか結構間違って、うわーっこれじゃあ、もうちょっと勉強しないといけないなと」
印刷工場での清掃の仕事をしながら、1カ月に6回ほどの授業のために自宅のある宮城県富谷市から毎回1時間ほどかけて仙台市まで通っています。
西村むち子さん「とにかく教えてもらったことに対して、分かるんですよ。先生が一から教えてくれるから。すごいな。ありがとうございます。本当にすごい。ゼロから。一人ずつに、その人の能力に合わせて先生、ゼロから細かく教えてくれるんですね」
スタッフ「年齢に関係なく、いろんなことを学ぼうっていう意思があるのはすごい尊敬します。そして、とても明るいのでとても楽しいです」
夜間中学は、もともと戦後の混乱期に生活のため昼間に仕事や家事をしなければならない人のために、中学校に設けられた夜間学級を指します。近年は、不登校や外国人の増加などを背景に、学び直しの場としての役割が期待されています。
文部科学省は、多様な学びの場の重要性を示した教育機会確保法が2016年に成立したのを機に、公立の夜間中学を都道府県や政令市に少なくとも1校は設置するように求めていて、これまでに15都道府県に40校が設置されています。
仙台市も2023年4月、若林区の南小泉中学校に東北で初めてとなる公立夜間中学を開設することを決めました。
仙台市教育局教育指導課五十嵐秀樹担当課長「十分に学ぶ機会がなかった人たちに対して、まず今回、設置するっていうことになりますので、そういう意味では学ぶ機会をちょっと広げていくようなことにつながっていくんだと思います」
生徒は県内に住んでいて、不登校や病気、家庭の事情などさまざまな理由で学校に通えなかった16歳以上の人や外国人が対象です。
仙台市が8月から10月にかけて開いた3回の説明会には、約40人が参加。
説明会の参加者「不登校という形で基礎学力がないまま(中学校を)卒業したということで、仙台市に夜間中学ができるということで興味を持って」
授業は、平日の午後5時半から午後9時までで、できる限り複数の教員が授業を担当する態勢を整えることにしています。初年度の定員は20人ほどです。
仙台市教育局教育指導課五十嵐秀樹担当課長「それぞれのご事情とかを聞きながら、個々に細やかな対応が取れるような形で学校づくりを進めたいと思っております」
多くの人に、学びの場を。仙台自主夜間中学の代表を務める中澤八栄さんも、公立の夜間中学に期待を寄せています。
仙台自主夜間中学中澤八栄代表「学びを求めている人に対して、多様な機会を提供することはその方々の幸せをつかむことにつながるだろうと思いますので、そういう形でぜひ一緒に歩んでいければなというふうに考えております」