仙台医療圏の4つの病院を移転して集約しようという、宮城県の構想に反発が強まっています。利用者や関係者は、不信と不安を募らせています。
仙台市のオルガニスト、川村有紀さんです。精神障害者をサポートする精神保健福祉士でもあります。グループホームなどで相談に乗る仕事をしていて、宮城県立精神医療センターの移転に反対する団体の代表を務めています。
みやぎユーザーズアクション代表川村有紀さん「実際、県立精神医療センターに通っていて、今までどれぐらい通ってらっしゃいますか。何年ぐらいですか」
県立精神医療センター利用者「8年ぐらいですかね」
みやぎユーザーズアクション代表川村有紀さん「それぐらいの期間、通っていた病院が移る、変わるということに対しては、どう考えますか」
県立精神医療センター利用者「長年お世話になった所から移動するというのは、それは大変。落ち着いた環境にいられることが、まず病状を良くしていく第一歩だと思うんですよ。基本のところ。そこが失われる」
みやぎユーザーズアクション代表川村有紀さん「変わらない日常があることで、取り戻せたりすることがあるよなって思って」
川村さん自身も統合失調症を患い、宮城県名取市の県立精神医療センターに入院したことがあります。精神保健福祉士の資格を取ったのは10年ほど前です。
みやぎユーザーズアクション代表川村有紀さん「同じ病気の経験をしている仲間と話すことで、自分だけじゃないんだなとか。精神保健福祉・医療を取り巻く様々な問題があって、それを人として1人の当事者として見過ごしていけないなと思っていて」
宮城県が主導する4病院の再編では、仙台市太白区の仙台赤十字病院と名取市の県立がんセンターを統合して名取市に、仙台市青葉区の東北労災病院と名取市の県立精神医療センターを富谷市に移して集約する方針です。
高齢化と人口減少が進んでいく中、限られる医師に活躍してもらえる環境をつくり、精神疾患やがんの患者への対応力も高めることが狙いです。
村井知事「県全体の医療バランス、将来的なことを考えて、こういうふうにした」
元々3つの病院だった再編構想に老朽化の進む県立精神医療センターの移転が加わったため、利用者らが反対運動の団体を立ち上げ、共同代表の1人に川村さんが就きました。
みやぎユーザーズアクション代表川村有紀さん「患者さんの気持ちが一番大事なので、そこに寄り添いながら支援をしていくことは時間も労力もお互いに掛かることなんですよね。移転されたら、今、県立精神医療センターに行っている子ども、また、入院してこれから家庭や学校に戻ろうとしている子どもたちは一体、どうなるのでしょうか。私は精神障害者の医療を含めた暮らしを脅かす病院移転に反対します」
4病院の再編に反対する声は、対象病院の地元住民や医療従事者からも上がっています。
事態が動いたのは8月末の審議会でした。村井知事が県立精神医療センターを転出させる名取市に、民間の精神科病院を誘致する案を表明しました。
村井知事「民間の力をお借りすることの方が、県民の理解が得られやすいと私は判断したということです」
審議会の委員から「実現性が乏しい」といった意見が相次ぐとこう述べました。
村井知事「私の考えに変わりはございません。これを止めることは当然、何の根拠もありませんからできない。私がやったことに対して止めることができるのは県議会だけ」
苦言や反発はその県議会からも。
県議「つきまとうのは説明の不十分さと患者、地域、医療従事者の不安が解放されない現実です」
与野党から厳しい質問が相次いだほか、県に説明会の開催を求めたり構想の撤回を要求したりする申し入れが続きました。
村井知事「ここに至るまで説明が不十分であることについてのお叱り、しっかりと真摯に受け止めなければならない。私がこういう構想に(なぜ)至ったのか説明をさせていただく機会を設けたい」
高齢化や人口減少に対応した医療の再編は全国的な課題です。新潟県は県中央部の2つの病院を統合し、新しい基幹病院を2024年3月に開きます。住民への説明会は基本構想がまとまっていない段階の10年前から重ねていて、ウェブ上も含めると合計で18回に上ります。
宮城県も住民向けの説明会を開くことになり、これについて川村さんたちの団体は5日、知事宛てに要請書を出し公開での話し合いを求めました。
みやぎユーザーズアクション代表川村有紀さん「一方的な説明ではなくて、当事者や関係者とのしっかりとした話し合いを知事に求めたいと思います」
村井知事は県立精神医療センターを転出させる名取市への民間病院の誘致が実現しない場合の選択肢としてセンターの分院を置く案に言及していますが、川村さんたちには場当たり的だと映っています。
みやぎユーザーズアクション代表川村有紀さん「今からでも遅くないとは思いますけれどもね。当事者の声を聞いて一から作り上げるという形にしてほしいと思っています」
山本精作記者「反発を受けても宮城県が病院の再編を進めようとしている理由の1つは、高齢化や人口減少への危機感だと思います。限られる財源を生かし限られる医師に活躍してもらうために、病院を集約・再編したいという方向性は一般論としては理解できます。しかし、人口減少に対応する政策は痛みを伴うことが多く、立場の弱い人への配慮が欠かせません。対話を重ねて政策を練り上げるプロセスが欠けているように見えます」
「村井知事は、当事者からの意見聴取が十分ではなかったことを認めています。県民のための病院再編という基本に今一度、立ち返ってもらいたいと思います」