台湾の半導体大手が出資する宮城県大衡村の新工場は2024年後半にも着工予定で、投資額は宮城県では過去最大の8000億円に上ります。地域に与える影響は。
半導体の世界的な研究で、ミスター半導体と呼ばれた東北大学の元総長、西澤潤一さんの名が付いた仙台市青葉区の研究施設で、12月下旬に半導体産業についての研修があり人材派遣大手スタッフサービス所属のエンジニア10人が参加しました。
そのうちの1人、石巻市から参加した伊藤理紗さんです。
伊藤理紗さん「現在は自動車部品の製造関係のお仕事。もし今後、宮城県で大々的に半導体関係の工場が建つのであれば、そういった仕事に関われれば良い」
台湾の半導体大手PSMCと日本企業のSBIホールディングスが出資するJSMCが、半導体の新工場を大衡村に建設すると表明したのは2023年10月でした。
SBIホールディングス北尾吉孝社長「北海道から九州に至るまで、日本の31カ所の候補地から非常に積極的な誘致がありました。場所は宮城県で、大衡村の第二仙台北部中核工業団地に決めました」
JSMCは、自動車向けを中心とした半導体を2027年から製造します。徐々に規模を拡大し従業員は1200人、投資額は宮城県で過去最大の8000億円を予定しています。
七十七リサーチ&コンサルティング田口庸友首席エコノミスト「単体の企業としてはかなり大規模。間違いなく宮城県のGDPを底上げする規模の経済効果があると考えられます」
経済効果は取引先だけではなく、従業員の住宅や飲食といった個人消費を通じて様々な業界に及びます。産業の米と呼ばれる半導体は、自動車やスマートフォンの製造に欠かせず自動運転やAIといった技術でも鍵を握ります。
しかし、世界市場に占める日本のシェアは5割から1割まで凋落していて、台湾や韓国、中国などが存在感を高めています。米中関係と台湾海峡の緊迫、半導体の調達をめぐる近年の混乱を踏まえ、安定調達を目指す日本政府は国内での工場建設や誘致の旗を振っています。
大衡村にできる新工場は、そうした国策や円安を追い風にしています。
JSMC呉元雄社長「数年前から半導体不足が起きている。車もそうだし家電製品もそうだし(生産に)影響が出ている。(出資する)PSMCは世界6位という規模の半導体ファウンドリー(受託製造会社)、日本国内の安定供給を目標にやってきた」
半導体産業の研修を受けた伊藤さんは、半導体をめぐる近年の混乱を肌で感じています。
伊藤理紗さん「車を買い替えた時に、新車の購入はすぐには難しいって色々な方から言われて、その理由が半導体の不足」
伊藤さんは新車を諦めて中古車を買いましたが、搭載されていたカーナビの性能に驚きます。
伊藤理紗さん「前に乗っていた車のナビは、こんなにきれいに反応してくれなかった。
中にいる半導体が頑張っているんだなって」
半導体産業は設計、製造、材料づくりなど幅が広く分業が進んでいます。JSMCが宮城県を選んだ背景には半導体の製造装置を手掛ける東京エレクトロン、半導体の設計を担うアルプスアルパインなど半導体に関わる企業の集積があります。
アルプスアルパインIC設計部服部靖之部長「JSMCさんとの連携、非常に密にできるんじゃないかと思って、即、連絡は取らせていただいています」
県は、新工場の円滑な受け入れと半導体産業の更なる集積を目指し、新組織を立ち上げました。
村井宮城県知事「台湾の企業で半導体を作っている、大変大きな投資をされている、そういったところの前例を探りながら、我々も準備を進めていく」
知事が言う前例とは、台湾の別の半導体大手TSMCが熊本県に建設した工場です。近くの土地の価格が上昇率で全国トップになるなど、半導体バブルとも呼ばれる状況になっていて人材の奪い合いも起きています。
北海道と東北では、今後10年で少なくとも数千人の半導体人材が新たに必要になるとの試算があり、伊藤さんが受けた研修も人材育成が狙いです。
産官学が連携して開いた研修ではミスター半導体、西澤潤一さんの下で長く働いた技術者が講師を務めました。
東北大学マイクロシステム融合研究開発センター渡邊拓さん「一朝一夕ではなかなか育たないので、自分の専門職の部分でトライアルしたり見い出したりして、色々なスペシャリストになっていただければ幸いかなと」
伊藤さんは、研修を受けて半導体産業に関わりたい気持ちが強くなったと言います。
伊藤理紗さん「すごい楽しかったです。生活にはとても大切なものだと思う、半導体って。どんどん進化を遂げて新しい研究で新しい技術が開発されていく。今後は是非とも仕事面で少しでも関われれば良いな」
山本精作記者「新工場の誘致に成功した宮城県。半導体産業の集積が更に進むと人材だけではなく、工場で使う水や電気もたくさん必要になります。急激な集積で歪みを招かないよう、他の産業や県民の暮らしにも配慮した政策が求められます」