災害時の避難行動に役立てる東北大学の最新の研究です。津波の浸水被害予測と人流データを活用した次世代の避難システムです。
東日本大震災が発生した2011年3月11日、沿岸部の広い範囲で多くの人が命を守るためより高い場所を目指しました。いざ自分が避難することになった時、今いる場所まで津波は来るのか?どこまで逃げたら良いのか?津波の浸水被害をいち早く予測し、私たちの避難行動に役立てる最新の研究が進んでいます。
東北大学災害科学国際研究所で津波工学を専門とする越村俊一教授です。世界初となるリアルタイム津波浸水被害予測システムを開発しました。
東北大学災害科学国際研究所越村俊一教授「津波予報は通常、津波の高さに関する予報。我々が予測するのは、津波が内陸にどれくらい浸水して来るのか、その浸水によってどれくらいの被害が起きるのかということを予測する。そこが一番大きな違い」
これまでの津波予報は、沿岸に点在する代表的な地点の高さや到達予想時刻が発表されてきました。このシステムは浸水予測が地図上に示され、津波がどこまで広がったか被害が大きな地域の推定を可能にします。
膨大な量のデータをより短時間で計算する必要がある津波の浸水予測で迅速な予測を支えているが、東北大学のスーパーコンピューターAOBAです
2023年夏に従来の14倍の計算能力となったAOBAは、24時間365日いつ地震が起きてもシステムに必要な計算ができるルールで運用しています。
越村教授が最高技術責任者を務め、新しいビジネスモデルに挑戦するスタートアップ企業RTi-castは、このシステムを運用し民間事業者で初めて津波予報業務の許可を取得し、1日から高知県と高知県沿岸の19市町に対して予報業務を開始しました。
この予測システムを大きく発展させた研究が進んでいます。
東北大学災害科学国際研究所越村俊一教授「今取り組んでいるのは、津波災害デジタルツインというシステムの研究を行っている」
デジタルツインとは、現実世界の言わば双子です。災害であれば被害を小さく抑えるためにはどうすれば良いか、双子として作られた仮想世界でシミュレーションして実際の対応に反映させようとする取り組みです。
そこで重要になるのが、どれだけの人がどこにいるのかの人流データです。
東北大学災害科学国際研究所越村俊一教授「災害が起きた時に、例えば津波の浸水した場所に何人くらいの人がいるのかということがリアルタイムで分かるようになると、我々考えている」
地震と津波が起きたと仮定した想定動画です。緑の点は携帯電話の位置情報から得た人の流れを示しています。
水色のエリアは津波による浸水想定範囲で、みるみるうちに街の中心部まで水は流れ込んで来ます。赤の点は、浸水したエリアに人が取り残された状況を示しています。
これまで浸水域内の人口は国勢調査を元に割り出していましたが、携帯電話の位置情報を利用することでリアルタイムで人の動きを把握します。
人流データは能登半島地震でも活用されました。ソフトバンクの子会社アグープが分析した能登半島の人の動きを、12月31日と1月1日で比較した動画です。
地震発生時刻の午後4時10分を過ぎると、人がとどまっていることを示す赤色の部分が増え、複数の道路で人の動きが無くなりました。道路が使えなくなっていることが推測されます。
このデータは支援活動を行う団体に無償で提供され、被災地に入るルートの選定に役立てられました。
平常時の人流データを災害時に生かす。越村教授が目指すのは、人流データといつどこまで津波が来るのか半歩先の未来を掛け合わせる次世代の避難システムです。
混雑が起きるなど避難を妨げる場所を事前に洗い出すことで、1人1人の命を守る行動につなげます。
東北大学災害科学国際研究所越村俊一教授「予測情報と重ね合わせることでどこで津波に人々が巻き込まれてしまうのか、あるいはこれを津波の浸水が来る前に予測してお伝えすることによって、どこに安全に避難すれば良いのかということがお伝えできるようになると思う」
システムの実現は5年後を目指しています。
東北大学災害科学国際研究所越村俊一教授「(東日本大震災から)20年の節目で実現したいと思っています。津波が発生した直後にできるだけ早く、信頼性の高いきめ細かな予測をして人の命を救うための情報として活用してもらう」