センサーやカメラなどを使って、働き方を変えていこうという試みが様々な産業で進んでいます。生き物を相手にするため労働時間になりやすい畜産の世界でも、この動きが広がっています。

 4月下旬の昼下がり。宮城県登米市にある農業法人の代表、高橋良さんの元に、1通のメールが届きました。
 高橋良さん「これから(牛の)お産が始まりますというお知らせです」

 高橋さんは事務所から牛舎に車で駆け付けます。メールでの知らせ通り、お産が近づいていることを確認できました。
 高橋良さん「1時間、ないし2時間かかると思います。あとは出てくるのを待つだけです」

 高橋さんの農業法人は従業員10人。120頭余りの牛を飼い、120ヘクタールの田畑で米や麦などを育てています。
 高橋さんの法人が、牛のお産の管理に利用しているシステムの仕組みです。牛は、出産の約24時間前に体温がわずかに下がります。
 牛の体に取り付けられたセンサーが、この体温の変化を読み取りスマートフォンに出産の兆候を伝えます。
 更に破水してセンサーが体の外に出るとそれを検知し、牛舎に駆け付けるタイミングを知らせてくれます。
 高橋良さん「お金がかかりますけども楽だと。体については労働は楽だと思います」

出産の兆候がスマホに

 高橋さんがこのシステムを導入したのは6年ほど前。牛を増やし田畑も広げた結果、人手が回らなくなったことで働き方を変えようと考えました。
 120頭もの牛を飼っている高橋さんの牛舎では出産は数日に一度はあります。システムを導入する前は、出産に気づくため、徹夜で見守りをすることも珍しくありませんでした。
 高橋良さん「(昔はお産が近づくと)車の中で寝たりプレハブで寝たり。大体旅行なんてのはほとんど無理だから」
 今では、夫婦そろって旅行にも行けるようになりました。

 このシステムを利用している畜産農家は全国で3200戸に上るなど、畜産の世界でもデジタル化による働き方改革が進んでいます。
 背景には業界の構造があります。畜産農家は後継者不足により10年ほどの間に3割も減る一方で、利益を出すために飼育する頭数を増やしています。
 体温や動きをセンサーで把握したり、固定カメラで観察したりといったデジタル化が、少ない人手で多くの牛を世話する手段として広がっているのです。
 農業経済に詳しい盛田清秀東北大学元教授「それなりの収入、所得がないと若い人は続けられない。規模を拡大して他の産業に従事したレベルの収入、所得が得られるような形に持っていく。そのための一つの手段としてICTが有効である」

 破水を確認してから3時間余り。高橋さんは、牛舎の固定カメラから送信される映像をチェックしながら出産の時を待ちます。しかし、この日はいつもと様子が違っていました。
 高橋良さん「なんだ、きょうのお産。この状態が続くと(通常は)出るんですよ」

 獣医を呼ぶことになりました。
 高橋良さん「助産の要請です。ちょっと陣痛が弱いようなので、まあ私の手では出せないということで獣医さんを要請しました」
 獣医が駆け付けました。
 獣医「お産が進んできている感じなんで(助産のために子牛を)引っ張りましょう」
 高橋良さん「これが現場です」

難産で獣医を要請

 この日のような難産の時もありますが、出産の兆候を知らせてくれるシステムは助かると言います。
 高橋良さん「お産が全てだからね。お産で事故で殺したら終わりだし。目安として駆け付け(の通報)、あるいは段取り(の通報)がありますので、これがあるとないとでは全然違いますね」

 高橋さんの法人では、田畑でもデジタル化を進めています。トラクターはGPSを備えていて、ハンドルを離しても自動で進むため従業員の負担を減らすことができます。
 高橋さんの三男・俊さん「楽ですし、効率もいいと思います。暗くなったりした時でも、作業しやすかったりっていうメリットもある」

 高橋さんは農業法人を続けていくには、若い世代に魅力的な職場づくりが欠かせないと言います。
 高橋良さん「労力の軽減も図らなければいけないし(従業員に)休みも当然やらなければいけないので、デジタル技術を使いながら働きやすい環境をつくっていかなければならないなと思います」

 山本精作記者
 「農業は、生き物や自然環境が相手のためパターン化しにくく、工場などよりデジタル化が難しいとされてきました。高橋さんのような農家の取り組みは、幅広い業種の参考になりそうです。
 人口減少により働き手が不足していく中で、デジタル化によって余裕が出た部分を、経営判断など人にしかできない分野に振り分けていくことが大事になりそうです」