宮城県の新たな津波の浸水想定は、公表から5月10日で1年です。沿岸部の自治体は、避難計画の見直しを迫られました。住民の命をどう守るのか、模索する現場を取材しました。
県が2022年5月に公表した新たな津波の浸水想定。千島海溝、日本海溝、太平洋沖の3つの地震で満潮時に津波が発生し、防潮堤や水門が破壊されるなど最悪の条件を想定しています。浸水面積は、県全体で391平方キロメートルと東日本大震災の1.2倍に上ります。
公表から1年、沿岸部の自治体は避難計画の見直しを迫られました。
東松島市防災課奥田和朗課長「確かに東日本大震災からかなり広がった部分はありますけども、人命第一ということで市民の命を守るために対策を進めるところが大事です」
宮城県東松島市には、最大10.6メートルの津波が押し寄せる想定で、浸水面積は東日本大震災の1.3倍です。16カ所全ての津波避難場所が浸水する恐れがあることが分かりました。
東松島市防災課奥田和朗課長「周辺に高い建物がありませんので、命を守るための津波避難タワーを建設する予定です」
東松島市は、初めてとなる津波避難タワーを矢本運動公園内に整備することを決めました。津波避難タワーの整備は、避難所まで徒歩で1キロ以上離れた避難困難地域を解消するために住民が要望していました。
関の内3地区自治会丹隆義会長「こんな大きい津波がまた来るのかなとびっくりしましたね。それでなきゃ避難タワーを造ってくれという要望も無かっただろうし、この公表が出たことによって意識が変わったというか」
津波避難タワーは高さ7メートル、収容人員は200人で高齢者や車いすの住民にも対応するためスロープが設置される予定です。
関の内3地区自治会長丹隆義会長「津波は来ないだろうと生活していましたが、それでは駄目なんだなと思って、最大級の津波のことも考えなければならないと近くに避難タワーが必要ではないかと考えた」
新たな脅威にどのように備えるのか。東松島市は津波避難タワーの他、高台への避難道路の整備などを決めています。
東松島市防災課奥田和朗課長「少しでも市民の命を守るために、実効性の高いハード対策、ソフト対策を進めていければと考えている」
1年かけて避難計画を見直してきた東松島市。4月に完成した新しいハザードマップです。県の浸水想定に基づき色分けされていて、指定避難所には浸水の深さが明記されています。
避難計画の見直しでは、これまで原則徒歩での避難を想定していましたが、その方針を転換。場所によって車での避難も視野に入れ、6月に避難訓練を行い検証することにしています。
東松島市防災課奥田和朗課長「避難所から1キロを超えた地区にお住いの方を対象に、車の避難訓練を行って検証をする」
しかし、車での避難に心配の声が上がっています。あおい地区で自治会長を務める小野竹一さんは、東日本大震災の津波で海の近くにあった自宅が流され、安全な場所を求めて海から3.5キロほど離れたあおい地区に移り住みました。
あおい地区は当初、津波による浸水は無いとされていましたが、新たな想定では1メートルから3メートルの津波が押し寄せます。
あおい地区会小野竹一会長「自治会は住民を守ってあげなきゃないという責任があるわけですから、住民の安心安全のために一番最適な方法を、ここの地区の避難マニュアルを作り上げていく」
あおい地区の住民の避難場所は、約500メートル離れた5階建ての災害公営住宅です。避難して来る車で道路が渋滞し、避難に影響が出るのではと懸念しています。事前に具体的な避難ルートを決めておく必要性を感じています。
あおい地区会小野竹一会長「車の混雑が1カ所に偏らない車の流れ、動線をきちっと見極めた避難マニュアル、指示の仕方を行政はちゃんと出すべき」
新たな津波の浸水想定の公表から5月10日で1年。東日本大震災を上回る災害に備えます。
東北大学災害科学国際研究所佐藤翔輔准教授「防災の対策というのは、残念ながらこれをやっておけば100%大丈夫ということはないわけです。そういった意味でさまざまな災害が起こる状況を想定した上で、それに見合った対策をどんどん考えていくと地域住民、私たちと一緒に考えていくことが大切なわけですけども、その大きな一つのきっかけを与えてくれたということで、今回の新想定は非常に意義が大きかったのではないかと思います」
新田智紀記者
「宮城県の沿岸15の自治体のうち、避難計画の基となるハザードマップを改定したのは仙台市や名取市、東松島市など10の市と町です。残り5つの自治体は、2023年度中の改訂を目指しています。
浸水面積が広がったことで、新たな避難場所の整備などの必要が出てきていますが、例えば仙台市は新たに浸水域に含まれた地域への対応として、津波避難施設を2カ所追加指定しました。宮城野区の高砂東市営住宅と、仙台市中央卸売市場食肉市場管理棟です。
ハード面の整備を進める一方、今後は新たな避難計画を元に訓練を重ね、より実効性を高めていくことが課題です」