旧優生保護法によって障害などを理由に不妊手術を強制されたとして、宮城県など全国の被害者が国に賠償を求めていた裁判についてです。最高裁判所は3日、仙台高裁などで判決が出され上告されていた5つの裁判について統一の判断を示し、国の賠償責任を認める判決を言い渡しました。宮城県の原告の裁判については訴えを退けた高裁判決を破棄し、審理のやり直しを命じました。

 旧優生保護法をめぐり全国の人たちが国に賠償を求めていた一連の裁判では、仙台や東京などの高等裁判所で判決が出され最高裁に上告されていた5件について、15人の裁判官全員が参加する大法廷で審理されていました。

 5件の裁判では、いずれの高等裁判所も旧優生保護法の違憲性を認めています。損害賠償については4件が国に賠償を命じるなか、仙台高裁だけが不法行為から20年が経過すると賠償請求の権利が消滅する除斥期間が適用されるとして、原告の訴えを退けていました。

 3日の判決で最高裁判所は旧優生保護法を違憲とし、除斥期間については「正義公正の理念に反し到底容認できない」などとして適用を認めず、国の賠償責任を認める統一判断を示しました。

 5つの裁判のうち宮城県の原告の裁判については、訴えを退けた高裁判決を破棄し、やり直しを命じました。

 20年以上前から声を上げていた宮城県の原告、飯塚淳子さんは次のように話しました。
 原告飯塚淳子さん「良かったですいい判決で。良かったなあってじんときました。泣きました。人生は返ってこないんですけどでも、いい判決で良かったと思ってます。きちんと謝罪してもらいたいし、これから手術された方が名乗り出て謝罪と補償を他の方にも受けていただきたいと思っています」

 午後5時ごろから始まった原告や弁護団の報告集会では、宮城県のもう1人の原告、佐藤由美さん(仮名)の義理の姉も喜びを爆発させました。
 佐藤由美さん(仮名)の義姉「2連敗しているからこそ色々な話とか弁護団もがんばってくれてここまで大法廷につながったからよかったなと思います。もし仙台で勝っていたらここまできてきょうみたいな判決はいただかなかったかなと私は思いました

 弁護団長新里宏二弁護士「法曹の担い手を最高裁がきちんと果たしていただいたのではないかなと、そういう意味では勇気あるすばらしい判決だったと思います」

 高橋直希記者「国に賠償を命じる最高裁の判決は午後3時ごろに言い渡され、閉廷すると傍聴席からはゆっくりと拍手が起こりました。良かったと声を漏らす方もいて原告の表情は柔らかく笑顔も見られました。
 宮城県の原告、飯塚淳子さんは今回も敗訴するのではないかと非常に不安そうな様子もありましたが、判決後は噛み締めるように何度もうなづき、にこやかな表情を見せていました。
 優生保護法をめぐっては2万人以上が手術されたとされていますが、裁判を起こしたのは39人しかいません。今後は国がどのようにして被害者を補償していくのかが問われることになります。

 旧優生保護法の一連の裁判は、宮城県に住む女性が被害者として初めて名乗り出たことが全国に広がるきっかけになりました。
 これまで被害者の救済を阻んできたのは除斥期間という「時の壁」でした。

 2018年1月、宮城県に住む佐藤由美さん(仮名)が仙台地裁に提訴したことが、全国で初めてのことでした。
 これをきっかけに各地で同様の裁判が提訴され、20年以上被害を訴え続けてきた飯塚淳子さん(仮名)も2018年5月に提訴しました。

 2019年の仙台地裁と2023年の仙台高裁はいずれも旧優生保護法の違憲性を認めたものの、除斥期間を理由に原告2人の請求を棄却しました。

 除斥期間とは、不法行為から20年が過ぎると賠償を求める権利が無くなるという民法の規定です。

 仙台地裁と仙台高裁は不法行為、つまり不妊手術から20年以上経っているため原告に賠償を求める権利は無いと判断していました。

 一方、大阪高裁、東京高裁、札幌高裁は除斥期間の適用を認めず国に賠償を命じるなど除斥期間についての判断が分かれていて、最高裁の統一判断が注目されていました。

 救済の扉が開いた今回の判決について、専門家に聞きました。民法に詳しい成蹊大学の渡辺知行教授は「全ての被害者を救済するような判断」と評価しています。

 成蹊大学渡辺知行教授「除斥期間だからと言っているような主張は、正義公平に反すると明確に言っている。被害の実態に即して重大な被害が発生しているということに照らして、十分な補償を受けられるようにするべきだと。全ての被害者を救済するような方向で判断されてるということになると思います」

 渡辺教授は「旧優生保護法の違憲性を認め、除斥期間の適用を認めなかった最高裁の判決は重い。仙台高裁の審理やり直しでも国の賠償を認める判決になるのでは」と話します。

 成蹊大学渡辺知行教授「国の方が人権侵害を行っていて、それを適法だというようなことを言っていて十分補償していない。そういうような状況の下で長らく損害賠償を求める、提訴するということが遅れているという状況ですから、差し戻しの後この最高裁の判例のルールに当てはめれば、今度は救済を認めなかった判断ではなくて原告の請求を任用すると、認めるといったというような判断に変わると思います」