戦後を代表する詩人の新川和江さんが亡くなりました。95歳でした。

現在の茨城県結城市に生まれた新川さんは、戦時中に、流行歌『青い山脈』の歌詞などを手掛けた 西條八十氏から手ほどきを受けました。

親族によりますと、新川さんは今月10日、心筋梗塞により、都内の病院で亡くなったということです。

新川さんが名誉館長を務める結城市の図書館には、執筆した作品などが展示されています。

ゆうき図書館・島田紀子館長 「こちらは先生が女学生のときに西條八十先生の書斎へ抱えて持っていったノート」

新川さんの代表作は、いまも中学校の教科書に掲載されています。

【わたしを束ねないで】

わたしを束(たば)ねないで あらせいとうの花のように 白い葱(ねぎ)のように 束ねないでください わたしは稲穂 秋 大地が胸を焦がす 見渡すかぎりの金色(こんじき)の稲穂

わたしを止(と)めないで 標本箱の昆虫のように 高原からきた絵葉書のように 止めないでください わたしは羽撃(はばた)き こやみなく空のひろさをかいさぐっている 目には見えないつばさの音

わたしを注(つ)がないで 日常性に薄められた牛乳のように ぬるい酒のように 注がないでください わたしは海 夜 とほうもなく満ちてくる 苦い潮(うしお) ふちのない水

わたしを名付けないで 娘という名 妻という名 重々しい母という名でしつらえた座に 坐(すわり)きりにさせないでください わたしは風 りんごの木と 泉のありかを知っている風

わたしを区切らないで ,(コンマ)や.(ピリオド)いくつかの段落 そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには こまめにけりをつけないでください わたしは終わりのない文章 川と同じに はてしなく流れていく 拡(ひろ)がっていく 一行の詩