間もなく水揚げが本格化するカキについて、漁師たちが経験的に行ってきたある作業が生産量増加や品質向上につながることが最新の研究で明らかになりました。
カキの養殖が盛んな宮城県気仙沼市の宿舞根漁港で、カキ漁師の畠山政則さんと息子の政也さんはカキの水揚げを前に、準備に追われています。
この日行っていたのは、温湯処理と呼ばれる作業です。カキをクレーンで吊り上げ、70℃ほどのお湯に10秒ほど浸し再び海の中へ戻します。
畠山政也さん「付着物が死滅して剥がれ落ちて、カキにだけ栄養がいくようになる。カキに身入りがすごく良くなるし、クリーミーさが増す」
身入りが良くなると長年、漁師たちが経験的に行ってきた温湯処理は、最新の研究で更なる効果が明らかになりました。
東北大学環境生態工学研究室坂巻隆史准教授「カキの成長が良くなる部分に加えて、品質が良くなる。海底に色々なものが養殖場から落ちる量を防ぐことで、海の環境を守ると」
東北大学の坂巻隆史准教授の研究グループは、南三陸町志津川湾の3カ所で約5カ月間、温湯処理の有無によるカキの違いを比較する実験を行いました。
その結果、温湯処理したカキは餌となる植物プランクトンの摂取率が高まることで、身の重量が2割から3割程度増加しました。
カキに含まれるDHAやEPAの濃度が13%から15%高いことも判明し、更に養殖場から海底に沈んだ有機物の量が最大57%減少しました。
質も良し、味も良し、環境にも良しと一石三鳥の効果が明らかとなりました。
東北大学環境生態工学研究室坂巻隆史准教授「漁師が編み出した経験的な方法がたくさんの効果を同時に生んでいて、非常に面白いなと思いましたし、海の物質循環をうまく利用して、生産効率を高めることができる例が示せたのでは」
海水温上昇に強いカキの養殖技術の確立につながる可能性もあり、坂巻准教授は今後も検証を続けるということです。
東北大学環境生態工学研究室坂巻隆史准教授「消費者が海の物質の循環や漁業者の苦労、取り組みに思いを向けてカキを食べてもらえたらなと」