東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県の水産業は、震災や原発事故そしてコロナ禍を乗り越え海外での販路拡大に挑戦しています。

 11月上旬の宮城県石巻市桃浦地区では、名産のカキの水揚げが始まりました。
 桃浦かき生産者合同会社新田拓哉代表社員「最初に比べれば、まあ若干良くはなったかな。まだまだこれから寒くなると、まだ大きく白くなる」

 津波で大きな被害を受けた桃浦地区ではカキ養殖をなりわいとしていましたが、津波で漁船の約9割が被害を受け地区のほとんどが災害危険区域に指定されました。
 桃浦かき生産者合同会社は、漁業の再生を推進しようと民間企業にも漁業権を与える水産業復興特区の第1号として、2012年に設立されました。現在は6次産業を行う会社として生産、加工、出荷までを一手に担っています。

石巻市桃浦地区でのカキ養殖

 会社の代表社員を務める新田拓哉さんは震災を機に女川町から石巻市桃浦地区に移り、10年近くカキの養殖などに携わっています。
 桃浦かき生産者合同会社新田拓哉代表社員「震災からのスタートで、本当に壊滅からのスタートだったんですけども、色々ありました」

 殻付きカキを主に国内の飲食店などに年間約50トン出荷していましたが、コロナ禍が直撃しました。
 桃浦かき生産者合同会社新田拓哉代表社員「コロナでみんな外食を控えるようになって、飲食店さんの販売が急激に落ち込んだ時期もありました。殻付きカキを生産し始めた頃だったんですが、売り上げは1割くらいまで落ち込んでしまって、ちょっと売れなくて在庫が残った時期もあったんですけど」

 打開策として、新たにネット販売やタイやベトナムなど東南アジアへの輸出に力を入れてきました。販路を徐々に広げ、2023年は殻付きカキの輸出量を前の年の約2.7倍の40トンにまで伸ばしましたが、2023年8月に東京電力が福島第一原発の処理水の海洋放出を開始しました。

市場が激化
 

 安全性に問題はありませんが、中国や香港などは宮城県など10都県の水産物の禁輸を決定しました。中国や香港で人気だった日本のカキは2022年に約1500トンが中国と香港に輸出されていましたが、禁輸措置が開始された2023年は900トンに減少しました。

 輸出を行っていた国内の水産業者が東南アジアに輸出先を切り替えたため、市場は激化しています。
 桃浦かき生産者合同会社新田拓哉代表社員「宮城県のカキは復興して、生産量はだんだん復活してきてる感じなんですよね。輸出先の国を広く探しているっていうのは、みんな思ってると思いますね」

 こうした状況を受けて宮城県は相談窓口を設けて輸出の支援などを行ってきましたが、この状況に頭を悩ませていました。
 宮城県国際ビジネス推進室鈴木清英室長「(東南アジアは)非常に輸入障壁も低いので、皆さんそこに集中するんですけども、その辺の厳しさはありましたし現在もあると思ってます」

 新たな輸出先として注目しているのが、日本から約1万1000キロ離れたメキシコです。宮城県のサポートの下、生産業者と現地の販売業者が連携して本格的に輸出態勢を整えています。
 TOYOFOODS購買部日本担当鎌田智子さん「今、本当こちらで言われているのがピザ屋さんよりも日本食のレストランの方が多いって、良くみんな言うんですね。それくらい人気で、普通の食べ物になってます」

 農林水産省の統計では、メキシコにある日本食レストランの数は中国やアメリカなどに次いで世界で5番目に多くなっています。生のカキを食べる習慣もあると言います。気になるのは、風評被害です。
 メキシコは、震災直後は日本産の食品などを輸入する港を限定する措置を取っていましたが2012年1月に撤廃し、それ以降は原発事故や処理水放出などによる輸入制限は行っていません。

メキシコ販路を求める

 現地では、宮城県の食品や海産物についてどのような印象が持たれているのでしょうか。
 「興味があります。シーフードがとても好きなので。提供される色々なシーフードを何でも試してみたいです」
 TOYOFOODS購買部日本担当鎌田智子さん「もちろん震災があったことはニュースになりましたしフクシマとかいうワードを聞き覚えのある人は多いと思うんですけれども、アジア各国の方のような強い反応はないです。メキシコ一般の方でそこを気にされる方っていうのはごく少ないと思いますね」

 11月6日、宮城県と国内の卸売業者が輸出に向けた打ち合わせをして現地視察の報告や輸出する商品について議論し、メキシコへの輸出を1月から始めることを決定しました。現地の店舗で、宮城フェアや宮城県産カキの試食会などが行われれます。新田さんたちが手掛ける桃浦地区のカキも加わります。
 国分東北マーケティング部村川誠明地域共創課長「宮城県といえばやっぱりカキですので、まずそこは外せないところかなって思ってます。実際メキシコ人もカキを食べるんですけど、やっぱり宮城県の特徴としては、サイズが大きくて濃厚な味が売りですので、そういったものをしっかり勧めていきたい」

 桃浦かき生産者合同会社新田拓哉代表社員「今までは震災であったり処理水の問題であったりとか色々な問題があったんですけども、そういう価値観の無いゼロな国からスタートできるっていうことは、たぶん自分たちの商品に対しては自分たちは自信を持っているので、一生懸命売り込みやすい。とても楽しみで、ちょっと今からもうちょっと頑張んなきゃないかな」