2022年度以降の再稼働を目指す宮城県の女川原発で、重大事故を想定した国の防災訓練が1月に行われました。住民の参加が見送られましたが、避難計画の実効性は高められたのか。訓練を検証します。
岸田文雄総理大臣「女川原子力発電所において、原子炉注水機能の喪失が発生したとの通報を受けました。原子力緊急事態宣言を発出いたします」
訓練は、女川原発2号機が地震と津波により被災し、原子炉を冷却する装置が故障して、放射性物質が外に放出される想定で行われました。
刻一刻と変わる事故の状況を報告する発電所からの通報が、地元自治体まで迅速に届くかどうかや、状況に状況に応じて地元住民の避難に結び付けられるかどうかを確かめる訓練です。
村井嘉浩宮城県知事「住民の安全確保を最優先に避難、屋内退避が速やかに行われるよう、組織の全力を挙げて対応し、万全の措置を講じます」
感染対策で住民の参加は見送り
本来の訓練ならば、避難の対象となっている住民が参加し、避難先までの道のりや手順を確認しますが、新型コロナの感染状況から住民の参加は見送られ、女川町、石巻市の自治体職員が代役となりました。
11年前の福島第一原発の事故以降、政府の訓練はこれまで全国の9つの原発、8つの地域で行われてきました。愛媛県の伊方原発の訓練では、避難対象の人口に対する訓練の住民参加は2割ほどでしたが、女川原発の訓練では対象の20万人に対して、住民役は0.08%に当たる160人にとどまり、過去最少人数での訓練になりました。
車での避難訓練で渋滞が発生
県の避難計画では、原発30キロ圏の住民20万人が、県内31の市町村に避難することになっています。村井知事は5キロから30キロ圏の住民役として参加。石巻市を出発し、放射性物質の付着がないか調べる涌谷町の検査場を通って、大崎市の避難先までバスで移動しました。しかし、検査場での受け付けに時間がかかったほか、道路が渋滞していて、到着が20分ほど遅れました。
村井知事「やはり避難退域検査等、場所、そこで混みあっておりました。また、各受付場所でどうしても時間がかかってしまってということがよく分かりました。今回、実際、混んだのは事実です。かなりの車が渋滞することは間違いないだろう」
一方、政府の受け止めは。
山口壯原子力防災担当大臣「私は十分、今回の総合防災訓練で実効性は確かめられたなという気はしてます。今のところ、大きな問題点ということは挙がってないように認識してます」
参加が見送られた住民への周知は
今回、参加が見送られた住民はどう受け止めているでしょうか。
住民「防災無線は聞いていましたね。(訓練を)やっているんだなぁって。車って思っちゃうんですけれども、でもたぶん無理ですよね、渋滞で。確かにあんまり現実的に考えていなかったですね」
「避難指定が仙台市の若林区の方に避難しなさいって指示が出ていたってことを聞いておりましたけれども、ただ私は車が無いので、免許も無いのでどうやって逃げたら良いのかちょっと分かんない」
「多分、(避難先は)栗原市辺りって情報は、何となく。でもバスに乗れるものなのか、自分の車で行かなければいけないのか、それはちょっと(分からない)」
避難先や避難手段、その手順など行政が作った避難計画が、住民に行き届いているとは言い難い状況です。また、避難訓練で住民役をした自治体職員は車が運転できる大人です。高齢者や乳幼児など避難に時間がかかる人は訓練の想定に含まれていません。
住民「食べ物とかもそうなんですけど、おむつとか、その時に持ってすぐ出られるか」
今回の避難訓練について、新潟県が独自で設けた避難計画の検証委員会の委員を務めた環境経済研究所の上岡直見代表は次のように話します。
環境経済研究所上岡直見代表「住民の観点から見て、これで本当に安全に避難ができるのかという点について、実効性は確認されたということは、これはまだ到底言えない段階だ」
また、感染状況を考慮し、住民が集まって参加することは難しくてもできる訓練はあったと指摘します。
環境経済研究所上岡直見代表「防災行政無線だとかエリアメールだとか、いろいろやってますけれども、例えば今回も実際にそういうメールを発信したり、放送はしていると思うんですけれども、逆に住民の視点からちゃんと受け取れたのかどうか」
今回は、東北電力や国や県、地元自治体などいろいろな組織がそれぞれの手順を確認したにすぎず、実効性を問える段階にないと釘を刺します。
環境経済研究所上岡直見代表「まだまだ一番下の段階をクリアしたということであって、避難計画全体を確認したということにはまだなっていない」
今回の避難訓練を受け、村井知事は最新の道路状況を反映した新たな避難のシミュレーションを実施し、渋滞箇所などを検証する考えです。