地球温暖化によって宮城の海に起きている異変についてです。南三陸町の志津川湾では、暖かい海にすむ魚、アイゴが増えています。海藻類を食べることで、磯焼けの原因となっている厄介者です。アイゴが宮城の海に及ぼす影響を取材しました。

 南三陸町の志津川湾。3日、海の生態を調べる潜水調査が行われました。海に潜るのは、南三陸ネイチャーセンターの阿部拓三研究員です。
 志津川湾は、寒流と暖流が交わり栄養が豊富な海です。220種類を超える海藻が生息しています。海藻類が生き物のすみかや餌となり、600種類以上の海洋生物が住む世界でも屈指の生物多様性を誇る海です。
 そんな志津川湾で、今、異変が起きています。

宮城・志津川湾で磯焼けが進む

 南三陸ネイチャーセンター阿部拓三研究員「このアイゴが、2021年の秋に取られたアイゴになりますね」

海水温上昇で海の厄介者アイゴが志津川湾に増加

 三陸沖の冬の平均海水温は、過去100年で1.21度上がっています。海水温の上昇で、これまで志津川湾で見られなかった暖かい海に住む魚、アイゴが増えているのです。

海の厄介者 アイゴ

 アイゴはスズキの仲間で、九州など主に西日本の暖かい海に生息しています。体長は、大きいもので30センチほど。背びれや尾びれなどに毒があり、プランクトンやエビ、海藻などを食べる雑食の魚です。
 志津川湾では、2018年10月に初めて、漁船の定置網にかかった10センチほどの小さなアイゴが確認されました。その後も年間数匹が定置網にかかることがありましたが、2021年秋に急増。
 南三陸ネイチャーセンター阿部拓三研究員「50匹から60匹の単位、あるいは10キロ20キロという単位で入ってくるようになったということですね」

 アイゴは、西日本では、漁業関係者に海の厄介者として恐れられています。
 南三陸ネイチャーセンター阿部拓三研究員「特に西日本、九州とかあちらの方では、海藻を食べる魚による磯焼けの進行が非常に問題になっているんですね。その海藻を食べる中心的な種類がアイゴという魚です」

ウニに加えてアイゴが磯焼けの主な原因

志津川湾の生態を調査

 近年、海水温の上昇で海藻類が十分に育たなくなり、ウニなどが食べつくしてしまう「磯焼け」の被害が全国各地で確認されていて、志津川湾でも一部のエリアで進んでいます。
 西日本で、ウニに加えて「磯焼け」の主な原因とされているのがこのアイゴなのです。
 阿部さんは、志津川湾での被害を調査するため、定置網にかかったアイゴの胃や腸を解剖しました。
 南三陸ネイチャーセンター阿部拓三研究員「海藻の葉っぱとか海草、アマモの葉っぱだったりがやっぱり出てきて、確かに志津川湾の海藻を食べているということは確かめられましたね」

志津川湾で盛んなワカメ養殖にも影響

 阿部さんが懸念するのは「磯焼け」が進行することで、海藻をすみかや餌にしていた生き物がいなくなってしまうことです。更に、阿部さんはワカメ養殖への影響も懸念しています。
 南三陸ネイチャーセンター阿部拓三研究員「特に志津川湾はワカメの養殖が盛んですので、ワカメの種をですね、小さい芽を11月ごろに養殖いかだに設置しますので、それを食べてしまうことがあると非常に問題です」
 ワカメの収穫は今が最盛期。阿部さんは、2021年秋にアイゴが急増したことから、ワカメ養殖に被害が出ていないか、漁業関係者に情報提供を呼び掛けています。

 アイゴが「厄介者」として恐れられている理由がもう一つあります。
 南三陸ネイチャーセンター阿部拓三研究員「味がちょっと臭みがあったりして、積極的に水揚げされて利用できる魚ではないということが厄介な点ですね」
 アイゴは、他の魚よりも消化管が長く、すぐに取り除かないと胃や腸の内容物の臭いが身に移ってしまいます。そのため、市場には出回らないのです。

厄介者の積極的な活用を模索

 こうした厄介者のアイゴを積極的に活用しようという動きもあります。長崎県西海市の会社では、2019年にアイゴをみそ漬けや干物などにした商品を開発。

「厄介者」商品化の取り組み

 西海クリエイティブカンパニー浪方勇希社長「漁師さんに話を聞いたら、地元では釣りが好きな人とかは実は隠れて食べているというか、刺身とかも処理を素早くすればおいしいんだよということは聞いていたので、課題を解決すればできるかなと」
 道の駅や物産展などで販売したところ、売れ行きは好調でした。
 西海クリエイティブカンパニー浪方勇希社長「いろいろな方からまた売ってほしいとかですね、作らないのというお声をいただいているので、時期が来たら第2弾として売っても良いのかなと思っています」

 温暖化による、海の異変。アイゴによる海藻類やワカメ養殖への被害はまだ確認されていませんが、東北大学の片山教授は、温暖化が進めば、志津川湾がアイゴに適した環境になり、1年中すみついて被害をもたらす可能性があると指摘します。
 東北大学大学院片山知史教授「沿岸の岩礁域には、海藻がいっぱいあるわけですね。やっぱり夏の水温が高い時期には、アイゴはその海藻を食べますので、磯焼けがこれから進行していく、その一因となっていくことに心配があります。漁業とかネイチャーセンターの調査を通じて、アイゴがどの辺まで分布が拡大したとか、そういう情報はみんなで共有していく必要があると思います」