赤字ローカル線の見直しについてです。JR陸羽東線の存続策を探ろうと、地元の宮城県大崎市が検討会議を立ち上げました。自治体の取り組みと観光関係者を取材しました。
陸羽東線の沿線にある鳴子温泉郷で、観光協会の事務局長を務めている菊地英文さんです。地元を紹介する地域誌の制作に16年間関わり、陸羽東線の魅力も発信してきました。
鳴子温泉郷観光協会菊地英文事務局長「平野部は田園風景ですよね。中山間地に来ると新緑も紅葉も素晴らしい所ですし、そこに5つも温泉の駅が並んでいる」
その陸羽東線ですが、存続が危ぶまれています。沿線人口の減少が背景にあります。7月、JR東日本は赤字ローカル線の見直しを進めようと、35の路線の収支を発表しました。陸羽東線の古川駅より西側は、その一つです。
2019年度の収支では、100円を稼ぐのにかかる費用は古川と鳴子温泉間で1043円。鳴子温泉と山形県の最上間で8760円でした。
鳴子温泉郷観光協会菊地英文事務局長「薄々は、そうだろうなとみんな思っていたと思うんで。改めてリアルな数字が出たんだろうなと」
10月20日の朝、陸羽東線の鳴子温泉駅に豪華寝台列車、トランスイート四季島が到着しました。月に数回、東北を巡る途中に3時間余り停車します。菊地さんは、駅近くの広場に出た店を回り、乗客らと触れ合います。
福岡からの旅行客「修学旅行で娘たちは(鳴子に)来たんですよ」
鳴子温泉郷観光協会菊地英文事務局長「ああ、そうなんですか」
福岡からの旅行客「初めて自分のお小遣いで買った土産がこけしだったんです」】
鳴子温泉郷観光協会菊地英文事務局長「ありがとうございます」
鳴子温泉郷観光協会菊地英文事務局長「土地の人たちとの触れ合いが車や飛行機より多くある。(列車の旅の)良いところなのかなと思っていますけども」
陸羽東線をどうするのか。存続策を探ろうと、地元の大崎市が検討会議を立ち上げました。
20日の午後、鳴子御殿湯駅に大崎市の伊藤康志市長やJR東日本、県などの幹部が降り立ちました。駅の近くであった検討会議の初会合に列車で集まりました。菊地さんも参加した会議で冒頭、伊藤市長は危機感をあらわにしました。
伊藤康志大崎市長「地方鉄道がまさに存亡の危機に直面している。109年の長い歴史のある陸羽東線ですが、次なる100年に向けての確かな歩みに向けての第一歩にしてまいりたい」
大崎市は市の職員を対象に実施したアンケート結果を公表。通勤に陸羽東線などの公共交通を利用している人はわずか2%でした。
利用客の増加へ大崎市は、市職員に陸羽東線の利用を促す取り組みを年度内に始めます。
伊藤康志大崎市長「利用増の方法として、市民に呼び掛けをするに当たっていろんな政策を実現していく市の職員自らが陸羽東線を利用してみる」
赤字ローカル線の見直しの先例について、メリットとデメリットを調べていきます。鉄道での存続が決まった一例としては、福島県と新潟県を結ぶ只見線が挙げられます。
10月1日、豪雨災害から11年ぶりに全線での運転を再開しました。地元の自治体はレールの維持管理費などを自治体側で負担する、上下分離に踏み切りました。
東日本大震災の後、一部がBRT=バス高速輸送システムとして再出発した気仙沼線についても研究の対象になりそうです。
存続を目指す大崎市は、市としての考え方を年度内にまとめ、2023年度以降に本格化するJR東日本との協議に備えます。
陸羽東線の行方について、JR東日本の幹部はこう述べました。
JR東日本東北本部箸方稔企画課長「鉄道があって当然ということではないという認識も改めてしたといったご意見もありましたので、自治体、県や大崎市、地域の皆さまと一緒になって、持続可能な交通体系についてしっかりと話し合いを進められればと思っております」
観光協会の菊地さんは、地元の魅力を磨いて大都市からの来客を増やすことに望みをかけたいと言います。
鳴子温泉郷観光協会菊地英文事務局長「ノスタルジックな思いとか、鉄道ファンの方の思いとかで、維持できるものではないと思うので、増やせるのはどこって言ったら交流人口。人を呼べるネタはあるんで。可能性は本当にあると思いますけどもね」
地域の公共交通をめぐっては野村総合研究所が2月、全国のローカル線沿線の住民およそ1万人にアンケートを実施しています。
「ローカル線をほぼ利用しない」との回答が75%を占めた一方、「将来的に自身や家族が高齢になるとマイカーを運転し続けるのは不安」との答えは86%に上りました。
鉄道の維持か廃止かといった二者択一ではなく、地域事情にあった選択が求められると野村総研は指摘しています。