宮城県丸森町の山あいの一部地区で、2023年の夏以降生活に使用する井戸水が出なくなる深刻な渇水が起きています。2019年の台風被害を乗り越えたのもつかの間、再び水の問題に直面しています。

 丸森町耕野地区にある、いなか道の駅やしまやは福島県境にほど近い阿武隈川沿いで道行くドライバーや地域の人たちの憩いの場として愛されている店です。
 耕野地区一帯では井戸水が出なくなる渇水が起きていて、やしまやの代表八島哲郎さん(61)も頭を悩ませる住民の1人です。
 いなか道の駅やしまや八島哲郎さん「店を始めて水が出なくなったのはもちろん初めて。約40年になるんですけどこれだけの渇水は初めて」

 丸森町耕野地区は、山間部に住宅が点在していることなどから水道は敷設されていません。町の水道普及率は宮城県で最も低い90.3%で、生活に使用する水は井戸水や湧き水などの自然水を利用しています。

深刻な渇水

 耕野地区で渇水が始まったのは2023年の夏ごろです。最も低い場所にあるやしまやでは、11月下旬から蛇口の水が全く出なくなりました。
 八島哲郎さん「(2日前に)雨が降ったから2日くらいは出た、いったんは出たけどかなり弱いです。いつもの勢いはない。100ミリ降ってもそのレベル、すぐ出なくなると思う」

 店は、ランチの提供をストップしたほかトイレも使用後にバケツで流してもらうなど営業に大きな影響が出ていました。耕野地区で行った調査では、約230世帯のうち34世帯が渇水で生活が困難としていて、このほか58世帯が節水をしているということです。
 当初は、多少の水が出た八島さんの自宅から水を運び急場をしのいでいましたが、それも限界を迎えていました。

 そこで、八島さんは店の裏に8トンの貯水タンクを設置し、業者に水を運んでもらう対応を取ることにしました。念願の設置作業が行われたこの日、表情も自然とほころびます。
 八島哲郎さん「トイレを使うのも制限があったので、お客様にトイレが使えないというのは非常にしんどかったので楽になると思います」

 5年前、2019年10月台風19号による大雨で丸森町は甚大な被害を受けました。
 八島哲郎さん「店に入ってきても膝くらいかなと思ったので予測が甘かった」
 やしまやも目の前の阿武隈川の氾濫により、道路から4メートルほどかさ上げした店舗の高さ160センチまで水が襲いました。
 八島哲郎さん「店の高さを決めたのが私だから、店に対してごめんね申し訳なかったねっていう気持ちが一番あったかな」

 5年前は洪水、今回は渇水と形は違えど水の問題に悩まされ続けています。しかし、八島さんは自然あふれるこの場所で生活を続けると言います。
 八島哲郎さん「ちょうど良いというのが一番いいんでしょうけど、自然という中で私たちが暮らしている以上、やはりそれは避けて通れないことではある。街場で疲れた人たちが遊びに来る人が多い。その自然を十分生かしつつ営業を続けたいと思う」

 5年前も今回も多くの人の支えがあったからこそ、苦難を乗り越えられたと話します。
 八島哲郎さん「困った時に水を山形県から持ってきてくださった人がいたり、これからも仙台市方面から水運んで行くよという方もいらっしゃるので、そういう方々に支えられながら暮らせるのは幸せだなと思ってました」

降水量減少が影響か

 過去には無かったという今回の渇水について、長年、耕野地区に住む住民は雨や雪の量が影響しているのではないかと推測します。
 谷津寿彦さん「私の考えではやっぱり降水量が少ないということだね。冬は雪降らないし夏は台風来なかったし、山の保水力が劣っているね」

 気象庁によると、丸森町の年間降水量は平均で約1300ミリですが、2023年は865ミリと平年の3分の2ほどにとどまりました。谷津さんの家では裏の山から引いた水をいったん井戸に貯めて生活用水として使用していますが去年夏ごろから水の量は少なくなり節水しながらの生活が続いています。
 谷津寿彦さん「私81年生きているうちで一番深刻だね水不足は」

 こうした問題を乗り切るため、丸森町の耕野まちづくりセンターは水が出なくなった家庭を回り生活用水を配達する取り組みを始めました。
 耕野まちづくりセンター大槻康浩事務局長「火曜日と金曜日にやってます。生きるためには水はどうしても必要だし、すごく大切だと思います。助かりますという声をよくもらいます」
 また、施設の風呂場や洗濯機を無料開放するなどして水が出なくなった世帯のサポートを続けていく方針です。