東日本大震災の直後、1冊の漫画で多くの子どもを笑顔にした伝説の書店が8月31日に閉店しました。62年にわたって地域の人に愛された街の本屋さんの決断です。

 塩川書店塩川祐一店長「返品作業ですね。最後にまあ閉店したんで、この店にある全部の本を出版社に戻さないといけないんですよ。ああやっぱり本屋終わったんだなって実感する時ですね」
 仙台市青葉区五橋の塩川書店の店長、塩川祐一さん(61)は8月31日に62年続いた書店を閉めました。
 塩川書店塩川祐一店長「自分にとっては思い出も詰まっているものでつらいですね」

 塩川書店は塩川さんの父親、久治さん(80)が1962年に現在の若林区河原町で創業し、愛宕橋そして五橋に移転しました。父の後を継いでから40年以上書店を守ってきた塩川さんは、ネット販売の拡大や電子書籍の普及による経営不振から閉店を決めました。

 塩川さんは、閉店を決めてから店の扉に自分の思いを書いて貼るようになりました。
 塩川書店塩川祐一店長「SNSができないんですよ。それで皆さんに自分の気持ちを伝えたいっていうので、毎日増えていってるわけですよね。その時に思うことが」

仙台・青葉区の塩川書店

 「本屋を愛したけど本屋には愛されなかった」「お客さんとの会話もなくなる…そっちのほうが深刻だ!!」
 街の小さな本屋さんで塩川さんは、本を売るだけではなく訪れる人との会話も大切にしてきました。
 「地域の人とのコミュニケーションになるようなお店がどんどん減っているので、そういったところでは非常に惜しいな、残念だなとは思いますけど」

 宮城県の書店で作る宮城県書店商業組合によると、1989年には362店舗あった書店は徐々に減少し、現在は87店舗と35年間で約4分の1に減りました。
 塩川書店は、開店から62年の歴史の中で東日本大震災の直後に起こったとあるエピソードが大きな話題になりました。
 塩川書店塩川祐一店長「人生の中でもやっぱり一番の出来事だし、1冊の雑誌なんですけども自分にとっては本当にヒーローだし」

 震災後に物流が止まり本が入荷しなくなった塩川書店は、訪れた男性客から山形県で購入したという最新号の週刊少年ジャンプを譲り受けました。
 貴重な1冊を子どもたちに読んでもらおうと「ジャンプ読めます!」と書いたポスターを貼りました。週刊少年ジャンプは100人以上の子どもたちに回し読みされ、この逸話は中学校の道徳の教科書にも掲載されました。
 塩川書店塩川祐一店長「本当に暗いニュースばっかりで子どもたちもやっぱり笑わなかったんですが、みんな並んでそのジャンプを読んで笑うわけですよね。自分もね、その中にいるので本当にうれしかったですね」

子どもたちを笑顔に

 塩川書店塩川祐一店長「本当に最後になっちゃったなっていう感じで、もうあしたからはこの道はこの時間には出勤しないので」
 最後の営業日は特別なイベントなどは開催せず、いつも通り開店の準備をしてお客さんを迎えます。
 塩川書店塩川祐一店長「20年前30年前のお客さんが、閉めるニュースを見て来てくれたので、支えられてたんだなってつくづく思うし、1人1人に感謝ですね」

 「(これから)どこに行けばいいの。代わりの店ないんだもん」
 塩川書店塩川祐一店長「そうですね。もう街中とかしか」
 店内は、昔からの常連客や閉店を知って訪ねてきた人であふれ、書店の最後を惜しみました。
 「小さい本屋さんで児童書がここまでいっぱい置いてある所あまりないので、良い本屋さんだなと思います」
 「まだ残っていてほしい」
 「近くで理容室をやっているので、こちらでお店に置く雑誌とかずっと買わせていただいていたし、結構夜遅くまで開けていてくださったので、子どもが塾から帰ってくる時とかにここがすごく明るく光っていて、安心感みたいなのがあったのでなんかすごく寂しいですね」

 書店の近くに住んでいる幕井成亜さんは13年前、ここで伝説のジャンプを読んだ1人です。
 幕井成亜さん「弟が(隣に)いて、こうやってこうやって(ページめくる)みたいな」
 当時、小学6年生だった幕井さんは弟と書店を訪れ、大好きな週刊少年ジャンプを回し読みしました。
 幕井成亜さん「余震もずっと続いていたので怖くて、でもここでジャンプ読んでいる間は怖さを忘れられる。心の支えは確かにジャンプしかなかったかもしれないですね」

 閉店時間が近づくにつれ多くの人が塩川さんの元を訪れました。そして、午後8時。
 塩川書店塩川祐一店長「父親の代から62年間で私どもは43年やりまして、閉店を迎えます。最後に本当に皆様の支えがあって43年間できたと思ってますので、本当にありがとうございました」

惜しまれながら閉店

 親子2代でつないだ街の本屋さんの閉店を惜しむ多くの人のに、未練と感謝の気持ちが入り混じります。
 塩川書店塩川祐一店長「もう少しできたんじゃないかっていう気持ちも半分、ああよくやったっていう気持ちも半分で、(お客さんと)一緒に人生を歩めて良かったなって、この塩川書店自体がお客さん、地域の皆さんと一緒に成長してきて最後を迎えられるんだなって、ありがたい気持ちでいっぱいです」