伝統的酒造りがユネスコ無形文化遺産に選ばれ、日本酒に海外から熱い視線が注がれています。巨大市場アメリカに挑む、宮城県の酒蔵の現状と課題です。

 宮城県主催の交流会で大崎市の料亭に集まったのは、海外で日本酒の普及などに取り組んでいる酒ソムリエのイタリア人たちです。宮城県の酒蔵が持ち寄った日本酒と、自慢の郷土料理を楽しみました。
 イタリア人「とてもエレガントで宮城の味を感じます」「友達に日本酒を薦めるとみんな驚きます。こんなに良いものだと知らなかったのです」

 参加した宮城県の酒蔵も手応えを感じたようです。
 一ノ蔵永井靖二課長「イタリア人も日本人もみんな楽しそうに召し上がっているのを見ると、万国共通だなと思ったのでまだまだチャンスはあると」
 男山本店菅原大樹専務「自信を持って造った物を海外の方にも楽しんでもらいたい。色々な食と合わせられる可能性があるという事を知っていただきたい」

海外にアピール

 日本酒に今、海外から熱い視線が注がれています。海外のレストランではワインなどと共にアルコールの選択肢の1つとして並び、海外の有力メディアには日本酒人気を取り上げています。
 そこに追い風が吹きいました。
 「日本文化に深く根付いています。登録を進言します」
 2024年に和食や歌舞伎と並び、伝統的酒造りがユネスコ無形文化遺産に登録されることが決まりました。

 国内を見ると、日本酒の出荷量は減り続けピークだった1973年度の4分の1以下になっている一方、輸出量は右肩上がりで輸出先のツートップがアメリカと中国です。
 他の酒蔵に先んじて、2000年ごろから本格的に海外展開を進めてきたのが、浦霞で知られる宮城県塩釜市の酒蔵です。アメリカを皮切りに、今や輸出先は約25の国と地域にまで及んでいます。
 佐浦佐浦弘一社長「国内市場の縮小は周知のことですので、海外市場に取り組んでいく事は弊社にとっても業界全体にとっても避けては通れない」

 国際的なワインコンテストの日本酒部門創設にも尽力した佐浦社長は、現在の海外売上比率は5%程度ですが5年後をめどに10%程度に拡大することを目指します。
 佐浦佐浦弘一社長「価格という点で考えると現地産の清酒の価格が安くなりますので、ちょっと価格は高くなるけれども品質の高いお酒をしっかりと輸出してPRしていく」

 宮城県も酒蔵の海外展開を後押ししています。福島第一原発事故以降、宮城県からは中国向けに輸出できません。このためアメリカは魅力的な市場ですが、禁酒法以来酒類の流通に厳しい規制があり輸出のハードルは低くありません。

 その代表例である3ティア・システムは、①製造・輸入、②卸売、③小売の各業者を別法人とし州ごとに卸売業者も変えなければならない複雑なルールで、県は酒蔵の販路開拓をサポートしています。
 宮城県国際政策課高橋征史課長「アメリカは色々な規制などがございますので、そういったところはしっかり私ども県が企業をサポートし、まず輸出の第一歩を踏み出していただこうと」

アメリカ進出を目指す

 2024年秋には海外で最大級の日本酒イベントに宮城県のブースを出し、アメリカ参入を狙う酒蔵と共にPRしました。
 参加した酒蔵の1つ、雪の松島が看板の宮城県大和町にある大和蔵酒造は、海外輸出はまだわずかでアメリカには進出できていません。

 大和蔵酒造で杜氏を務め新商品づくりに取り組んでいるのが、まだ33歳の関谷海志さんです。関谷さんは祖父と父ともに日本酒業界で働いた縁もあり、大学卒業後2014年に入社し入社8年目で杜氏に抜擢されると自身の名前を冠した銘柄、海が品評会で金賞1位に輝きました。
 大和蔵酒造関谷海志杜氏「アメリカのお客様に日本酒を提供するイベントで喜んでくれて、これはどこで買えるんだとすごく聞かれたんですけど、アメリカに輸出していないので今はまだ買えません。うれしいような、悲しいような状態」

 18日、進出の足がかりとなるチャンスが訪れます。アメリカの日本酒専門店の店長らが酒蔵を視察にやって来ました。杜氏の関谷さんが製造工程を案内し、アピールしていきます。
 大和蔵酒造関谷海志杜氏「これを導入したことによって海外にも輸出した時に耐えられるような酒質にすることができたかな」

課題は輸入卸売

 その後の試飲は真剣勝負そのものです。海シリーズの味わいを1つ1つ確かめていきます。関谷さんにとっても緊張の瞬間です。
 TRUESAKEメイ・ホ店長「特に(県独自の酒造好適米)吟のいろはを使った日本酒は店に置くことができる」

 一方、この先は実際に輸入卸売業者を確保して、消費者にブランドをどう伝えていくかが課題だということです。ひとまずホッとした表情の関谷さん。
 大和蔵酒造関谷海志杜氏「あとはメイさんが言うように、どういう風に輸入してお店に届けて消費者の方に届けるのか。そこが課題かなと思いますね」

 関谷さんは、ユネスコの無形文化遺産登録もてこに、今後3年以内にアメリカの10店舗で取り扱ってもらうことを目標にしています。
 大和蔵酒造関谷海志杜氏「手に取って口に入れてさえもらえれば絶対にいい物は造っていますのでそこは自信がありますけど、そこまでが一番高いハードルなのかなと思っています。色々やらなきゃいけないことは山積していますので、1つずつ粘り強く続けていければなと思っています」