話す時に言葉が滑らかに出にくい吃音への理解を深めてほしい。当事者の若者たちが始めたのは接客を体験するカフェです。

 2日、仙台市宮城野区に開設された1日限定のカフェ。
 過心杏(すぐる・このん)さん「こちらは注文に時間がかかるカフェです。カフェのスタッフは全員、吃音者です」

 このカフェは、話す時に言葉が滑らかに出にくい吃音を抱える当事者が接客に挑戦します。吃音への理解を深めてもらおうと1年半前に東京で初めて開催された、注文に時間がかかるカフェ。各地で回数を重ね14回目となる今回、初めて東北で開かました。発起人である奥村安莉沙さん(31)も吃音に悩みました。
 奥村安莉沙さん「吃音の理解を深めてほしい、スタッフにとっては接客に挑戦する良い機会で、この挑戦を通して自信につなげてほしいと思っています」

東北で初開催

 店員を務めたのは、仙台市に住む過心杏さん(19)です。症状は軽度ですが、吃音を抱えています。
 吃音は、話し言葉が滑らかに出ない発語障害の一つです。主な症状として音を繰り返す連発、音を伸ばす伸発、言葉が出ず間があいてしまう難発があるとされます。

 心杏さんの場合は、な行など特定の音が出にくい他、敬語や初対面の人と接する場面よりも家族や友達といった普段の会話の方がより症状が出やすいということです。
 過心杏さん「では、お好きなドリンクを各、お一人ずつ一個ずつ選んでいただいてもよろしいですか?」
 客「ホットコーヒーで」
 過心杏さん「ホ、ホットコーヒーで」

 心杏さんは将来を考えた高校3年生の時、幼い頃から悩んできた吃音に向き合おうとこのカフェへの参加を決めました。今回は3回目の参加にして初めての地元開催です。
 奥村安莉沙さん「きょうね、注カフェ宮城、待ちに待った注カフェ宮城なんですけれども今の心境はどうですか?」
 過心杏さん「えーっと、1回目参加した時から、ずっと地元にも開催したい、東北にも持ってきたいっていうのがすごくあったので、やっと開催できたなっていう感じです」

 国内に120万人いるとされる吃音の当事者。原因は分かっておらず、完全に克服する治療法は確立されていません。
 カフェの営業は寄付で支えられ、飲み物の代金は取りません。今回はあらかじめ予約した31人が訪れました。
 「私、当事者で、3歳くらいかな物心ついた時から吃音があって、私の20代の時はどもることとか、吃音の話題を出すのもタブーというか良くないような気がしていたので、勇気があるなっていうのと、今、悩んでいる方にもこういう活動が響けばな」

吃音カフェで接客

 中には、心杏さんが小学生の頃に通っていた言葉の教室で先生だった女性も訪れました。
 過心杏さん「あの時ってあんま吃音だなって思っていなくて、自分でも周りも。ただのお友達の集まりって思ってたんですけど、今思い返してみるとね、みんなそうなんですよね」
 金子隆子さん「そうそう、(教室は)まだ続いてますよ」

 心杏さんに吃音の症状が現れたのは物心つく前の2歳の頃。
 過心杏さん「幼稚園のころとかにやっぱり、しゃべり方をまねされてしまったり、何でなの?って聞かれたのが最初の記憶です。小学校くらいの頃からちょっとやっぱり、からかいとかがひどくなってきてしまって、そこからやだなって気持ちはすごく増えました」

 周囲には吃音のことを正しく理解してもらえず、次第に人と話すことを避けるように。聞き役に徹することが多くなりました。そんな心杏さんの支えになってきたのが歌うことでした。
 過心杏さん「歌だったり音楽だと吃音の症状が私は出ないので、今はカフェに参加して吃音も普通ってことに気付いたんですけど、学生時代は吃音は普通じゃないって思っていたので、音楽をしている時は唯一普通になれる瞬間だった」

 奥村さんたちは、カフェの活動をドキュメンタリー映画にして発信しています。主題歌は、映画に登場する心杏さんが作りました。
 過心杏さん「人前で歌うっていう夢を諦めたけど、今回こうやって主題歌としてもう一度夢をつかむチャンスが来たってことで、あの時置いてきた夢を持っても良いかなって歌詞をつけました」

 曲のタイトルは「1番好きで大嫌いな音」。吃音にずっと向き合ってきた自分の思いを込めました。
 過心杏さん「人生で一番好きなのは歌、音楽だけど、でもそれと反対で一番嫌いなのは吃音で、どっちも自分の音、声っていうその矛盾というか皮肉だなって思ってたのが、ずっと残っていたので」
 過心杏さん「♬あの時置いてきた夢をもう一度持っても良いかな?1番好きで大嫌いなこの音で私が生きるための歌♬」

自分を取り戻す

 心杏さんは、カフェに関わったことで、元々話をするのが好きだった自分を取り戻せた気がすると感じています。
 過心杏さん「自分でも一番びっくりしたんですけれども、吃音と関わりたいって思ったんです。今までは吃音なんかと絶対関わりたくないって思ってて、目を背けてきたんですけども、私がこうなったようにこういう場所をつくれたらな」