惜しまれながらも半世紀の歴史に幕を閉じた宮城県石巻市の喫茶店、地域活性化に取り組んできた喫茶店復活に懸ける新オーナーです。

 石巻市の中心部にある小さな喫茶店、加非館には新たなスタートに向け準備を進める人たちの姿がありました。中心にいるのは、元新聞記者の本庄雅之さんです。
 本庄雅之さん「前のお店の雰囲気をなるべく引き継げるように、皆さんが和んでいただけるような場にしていきたいなと思ってますけどね」

 加非館のオープンは1974年です。震災の被害も乗り越え長年、憩いの場として親しまれてきました。しかし、2023年12月にオーナーの体力的な限界を理由に、惜しまれながらも50年の歴史に幕を閉じました。

憩いの場所を再開へ

 この店を引き継いだのが、本庄さんです。
 本庄雅之さん「(店が)無くなってしまうのはとても惜しいので、とにかくここを無くしたくない一心で(引き継ぐと)自分で手を挙げたっていうことですけどね」

 本庄さんは高校までを石巻市で過ごし、東京の大学を卒業後はスポーツ新聞の芸能記者として活躍しました。2021年に石巻市にUターンし、地元紙の記者として働き始め現在は石巻市で映画の上映会を主催するなど、地域の活性化にも取り組んでいます。
 「地域の大事な憩いの場である加非館が無くなってはならない」との思いから、店を引き継ぐことを決めたと言います。
 本庄雅之さん「石巻市に帰省する度に色々な建物とかハード面はだんだんできてきてるのは目に見えて分かったのですけど、街中の寂しさが痛々しいっていうかね。やっぱり変わらずここに加非館があるってことが、町の皆さんのひとつの安心材料になっていたんじゃないかと思いますね」

 本庄さんに加え、同じく店を引き継ぎたいというバリスタや時折店を手伝っていた女性2人も集まり、4人で店を再開することになりました。
 7月からは、元オーナーにホットケーキやトーストなどメニューのレシピを教わり、猛特訓を開始しました。
 本庄雅之さん「私それまで毎朝ね朝食はパンだったんですけど、パンもうやめましたね。
練習でパン食べるものですから、もうお腹空かしてお店入って色々準備して作っては食べっていうその繰り返しで今日まで来たんですけど」
 オープン前日のこの日の食事も、練習で作ったメニューでした。

 9月11日、ついに迎えた再オープン初日の朝、本庄さんの姿は店の外にありました。近所に開店のあいさつ回りです。何とかあいさつを終えたものの、開店直前の店内には緊張感が漂います。その時、店に復活を祝う花が届きました。
 本庄雅之さん「すごいねこれ、うわうわ、何かすごいなあ。やばいなあ。オープンって感じですね」

再オープン初日

 午前11時、店がオープンしました。再開後初めての客は開店から20分後に訪れました。更にその20分後、2組目の客もやってきます。注文は、特訓を繰り返したトーストやアイスコーヒーです。
 2組目の客は、加非館の向かいにある陶磁器店の男性です。元々常連客で、町内会の集まりでもよく使っていたといいます。
 「うれしかったですよ、そりゃ。器を使っていただくお店が増えるのは大変ありがたい」

 開店から2時間後には、店内が再オープンを聞きつけた客の姿でにぎわいました。
 十数年、毎日この店に通っていたという開業医の男性は、復活初日もコーヒーをお供に顔なじみとの会話に花を咲かせていました。
 「毎日決まった時間に来て、いつも知り合いの人とちょっとお話して気分転換して、毎日そういうものの繰り返し。十分おいしいんですけど、たぶん将来もっとおいしくなっていくんじゃないかと思いますけど」

地域も後押し

 こうした街の人の期待や感謝が背中を押してくれると、本庄さんは語ります。
 本庄雅之さん「ありがとうって言ってくれる方がいるんですよね。我々はその言葉に物凄く勇気づけられますし元気づけられますし、そういう方がいる限り守っていきたいと思いますし。実家みたいなね、そういう場所にもなれたらいいなって思いますね」

 再び明かりをともした加非館は、街の景色を彩りながら変わらず街の人たちを見守り続けています。