ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から間もなく1年。母親と宮城県石巻市に避難してきたウクライナ人女性の今の思いです。

 石巻市で毎週開かれている日本語教室。ウクライナ出身のホンチャロヴァ・イリナさん(63)です。少しずつ日本語が話せるようになりました。
 日本に避難して10カ月。古里のことを考えない日はありません。
 イリナさん「(冬の)ウクライナはとても寒いのです。停電で多くの人が暖房が無い状況で過ごしています。寒さに耐えている人たちがとても心配です」

ホンチャロヴァ・イリナさん(63)

 2022年2月に始まったロシアによるウクライナへの侵攻。インフラ施設を狙った攻撃が相次ぎ、戦況は各地で激しさを増しています。
 侵攻当初に約1カ月間、自宅や地下で過ごしたイリナさん。2022年4月に石巻市に住む長男を頼り、ウクライナ北部の都市チェルニーヒウから87歳の母親と避難してきました。
 イリナさん「(罪悪感から)日本に着いた時、誰とも会わないように、ただ家にいたいと思っていました。隣人や友人がそこ(ウクライナ)に取り残されたような感覚は、耐え難いものでした」

 慣れない日本での生活。イリナさんを行政や家族、地元住民が支えています。2022年の夏から、石巻市内の繁華街で息子が始めたウクライナ料理店を手伝っています。
 更に、震災遺構の門脇小学校で月に2度、自らの経験を語ったり施設を案内したりするなどのボランティア活動も始めました。
 イリナさん「コンサートに招待されたり、(市の職員のサポートで)母はすぐにデイケアに通い始め、多くの人たちと知り合いになることができました。避難者のための市の取り組みは、非常に正しいと思っています。なぜなら、私たちはすぐにアクティブに生活を始めることができたからです」

日本での生活を支える

 長引く避難生活で懸念されるのが、心のケアです。石巻市は、東日本大震災の経験を生かし月に2度、自宅を訪問し困ったことがないか確認しています。
 石巻市保健福祉部大須美律子さん「表に出さない心痛とかあると思いますが、(イリナさんは)今の生活に慣れようとして本当に前向きな方だと。(今後は)だんだんフェイドアウトしながら、ご本人様がいろんな方とつながりを持って、地域の中で孤立せずに自立して生活できるような形に持っていければ良いかなと思ってます」

 全国のウクライナ避難者の心のケアをサポートしている団体の代表は、避難者の誰しもが罪悪感を抱えていて、突然大きなストレスとして現れてくることがあると話します。
 全心連ウクライナ心のケア交流センター浮世満理子代表「壮絶な体験をみんなしてきてるわけですから、ニュースが一つのトリガーというかきっかけになって、自分がもともと持っている(ストレス)状態が、かなり悪化していくというのがカウンセリングをしていても見受けられます。最初に大切なのは居場所づくりだと思うんですよね」

 この団体では、避難者が抱える罪悪感を解消しようと2022年10月からある取り組みを始めました。ウクライナからの避難者が本国にいる家族や知人に必要な物資を聞き取り、その情報を日本の支援者に提供し、日本の支援者に物資をウクライナに送ってもらおうというものです。
 イリナさんも1月から、この取り組みに協力しています。
 チェルニーヒウの高齢者関連の支援団体で働いていたイリナさん。この日、停電が続く現地に残る同僚に必要なものを聞きました。
 イリナさんの同僚「支援してくださるとうれしいのは、温かい肌着に暖がとれるもの、保温機能に優れた魔法瓶、それに懐中電灯など何らかの明かりになるものです」
 イリナさん「高齢者の方々が温かく過ごせるような何かしらのものを支援してくださると、とてもうれしいです。これがかなうように強く願っています」

宮城県でウクライナ支援の輪

 今もウクライナに残る家族、多くの友人や同僚。古里のために力になれていると思うと、うれしさを感じると言います。
 支援の輪は宮城県で広がっています。仙台市に住む蒲澤直子さんは1月、キーウに職場の仲間5人と使い捨てカイロや寝袋などを送りました。
 物資を送った蒲澤直子さん「震災を経験しているからこそ、その状況というのは全く同じじゃないけれども、届いたら少しでも温かい気持ちになってもらえたらなと」
 全心連ウクライナ心のケア交流センター浮世満理子代表「あなたがいてくださったからウクライナのこういう人たちにサポートができるんです。日本と一緒に自分もウクライナのために何かができる。そして、日本の中で自分がちゃんと受け入れられているというそういう心の支えこそが、非常に重要なところではないかなと」

 1月23日、イリナさんに思いがけないプレゼントがありました。
 イリナさん「何てかわいらしいの」
 日本語講師の友人が、これから初めて迎えるひな祭りを楽しんでもらおうと、イリナさんにひな人形を贈りました。
 日本語講師横須賀栄美子さん「石巻にはあなたを心配している人がたくさんいます」
 イリナさん「私はあなたをウクライナに連れて帰ります」
 日本語講師横須賀栄美子さん「お~」
 イリナさん「私たちのウクライナにも、似たようなウクライナの人形があるんです。大切にします」

古里に帰れるように

 ロシアによるウクライナ侵攻から間もなく1年。イリナさんは、一刻も早く戦争が終わることを願っています。
 イリナさん「ふるさとに帰れるように。今、神様にお願いしていることはそれだけです。それ以外は何もいりません」