再生可能エネルギーの発電施設を森林に設置する事業者への、宮城県の独自課税についてです。山本精作記者とお伝えします。独自課税とはどのようなものなのでしょうか。

 風力発電や太陽光発電といった再エネの計画への反対運動が相次いでいます。施設の適地への誘導を目指し、宮城県が2024年春までの導入を目指しています。
 現場と課税をめぐる議論を取材しました。

 大崎市と栗原市にまたがる東北大学の六角牧場。森林に囲まれた一帯に発電用の風車を17基造ろうとしていた北海道の会社が、1月、計画を見直すと発表しました。
 北海道の会社の幹部「現行計画に対するお声を真摯に受け止め、総合的に判断した結果、(基数の削減など)現行の事業計画を見直すことが必要だと判断しました」

 地元の住民からは、水道の水源や景観、渡り鳥などへの悪影響を心配する声が上がっていて、この会社は仕切り直しを迫られていました。
 宮城県で相次いでいる再エネの計画。反対運動などが起きているのは、少なくても13件に上っています。その大半を、風力発電と太陽光発電が占めています。
 県による独自課税の方針は、反対論に弾みをつけている面があります。

【画像】再エネ計画が宮城県で相次ぐ

 六角牧場計画の住民説明会の参加者「宮城県知事は(森林に再エネ施設を造る)業者に税金をかけると言っていますよね。もう、諦めた方が良い」
 県が独自課税の方針を打ち出したのは、2022年9月の県議会でした。
 村井知事「新たな森林を開発して再エネ施設を設置する事業者に課税することにより、経済的な負担が重くなる状況を作り出すことで、森林以外の適地に誘導する」

 駆け込み着工を警戒する県は、2024年春までの導入を目指し制度設計を急いでいます。
 県税務課笹森博樹課長「(再エネ施設の適地への誘導という)目的達成の観点からは、可能な限り高い水準であることが求められる」

【画像】宮城県が導入を目指す「独自課税」

 県の現時点の案では、課税対象は、森林の開発面積が0.5ヘクタールを超える新設の施設。課税額は、事業者の営業利益の3割から4割を想定していて、発電能力を基準に1キロワット当たり風力では4200円以上、太陽光では1130円以上です。
 この県の案に有識者は。
 有識者「税額が(開発の)抑止力そのものになる」「私の感覚から言うと(課税額は)せいぜい20プラスマイナスアルファかな」

 独自課税を導入するには、根拠となる条例案が県議会で可決され、更に総務大臣の同意が必要です。このような独自課税を検討している自治体は他にもあります。
 岡山県美作市は2019年、太陽光パネル1平方メートルにつき50円を課税する太陽光パネル税を導入すると表明しました。
 条例案は2021年12月に市議会で可決されましたが、事業者は反発。美作市は2022年6月、総務省から「業者との協議を尽くすべきだ」との通知を受けていて、大臣の同意を得られるめどは立っていません。

 宮城県の独自課税はどうなのでしょうか?
 村井知事「美作とは全然、違うんですね。同じ土俵で考える必要はないと思っています」
 美作市が、これから建設する施設だけではなく既存の施設にも課税しようとしているのに対し、宮城県の独自課税は既存のものや着工済みのものは非課税とする方針です。

 ただ、総務省は同意の条件に「負担が著しく過重にならないこと」を挙げていて、このハードルは宮城県も意識せざるを得ません。一方で、税の負担が軽いと事業者の目に映るようなら誘導の効果は薄くなります。

 川崎町の森林で太陽光発電を計画している東京の事業者はこう述べます。
 太陽光の計画事業者「(課税対象に)仮になろうが、ならなかろうが太陽光発電は必要な事業。営業利益に対して(3~4割の課税)だったら、さほど問題ではない。それを今度、税金としてしっかりと他のことに使っていってくれるなら、ある意味良いことかもしれないですね」

【画像】適地の確保も課題

 県にとっては誘導先となる「再エネの適地」をどう確保するかも課題です。県は、当面の誘導先に太陽光発電では住宅や工場、農地、ため池などの他、再エネを促す「再エネ促進区域」を挙げています。風力発電では「再エネ促進区域」を想定しています。
 森林であっても「促進区域」であれば非課税とする方針ですが、どれほど広がるかは不透明です。

 風力計画の反対運動に向き合っている大崎市の伊藤康志市長は、県の独自課税について「共感を持てる」とした上で、誘導先と想定される「再エネ促進区域」の設定については、こう述べます。
 伊藤康志大崎市長「広い面積で大量のエネルギーを生産できるような場所があるだろうか。(大規模なものは)なかなか難しいのではないか」

 再生可能エネルギーは福島第一原発の事故の後、国の旗振りで一気に促進された印象があります。
 ただし、森林への影響や地元との合意形成といった面への制度的な配慮は十分とは言えません。事業者と住民の摩擦は全国で起きており、宮城県の独自課税は苦肉の対応策と言えます。
 それでも、世界的な気候変動は待ったなしです。温室効果ガスを減らす再エネを、地域の暮らしと調和させつつ導入していくことは喫緊の課題です。規模の小さい再エネ施設の積み重ねなど、促進策を含めた活発な議論が期待されます。